公開日:2025年12月17日

【2025年ベスト展覧会】和田彩花が選ぶ3展 |年末特集「2025年回顧+2026年展望」

年末特別企画として「Tokyo Art Beat」は、批評家やキュレーター、研究者、アート好きで知られる有識者の方々に、2025年にもっとも印象に残った展覧会を3つ挙げてもらった。選んだ理由や今年注目したアート界の出来事についてのコメントと併せてお届する。(展覧会の順位はなし)

「ジャネット・カーディフ《40声のモテット》」(長崎県美術館)会場風景

和田彩花が選ぶ「ベスト展覧会」

(A)「コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ」東京国立近代美術館

(B)
「〈若きポーランド〉-色彩と魂の詩 1890-1918」京都国立近代美術館

(C)「ジャネット・カーディフ《40声のモテット》」長崎県美術館

(A)戦後80年の節目に開催された1930年代から1970年代の戦争のあった時代に、何がどう伝えられたのかを、美術を通して知ることのできる展示です。

戦争の時代に画家たちがどのような姿勢で何を描いたかは、画家によって、世代によって、変わるものだと思います。様々な立場から見た「戦争」を、美術や文化を通して見られたのがよかったです。今年は、戦争にまつわる様々な展示を見ましたが、「記録をひらく 記憶をつむぐ」では、複数の文脈を丁寧に客観的に伝える姿勢も感じられたのがよかったです。

また絵画だけでなく、写真やラジオ、映画などのメディアを通してどのような情報が「記録」、「記憶」されたかを知る資料も充実していました。

「コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ」(東京国立近代美術館)会場風景 撮影:編集部

(B)19世紀後半のポーランドで名声を博したヤン・マテイコを前史とし、彼のもとから巣立った芸術家たち「若きポーランド」が生み出した芸術が日本で初めて紹介されました。

フランス、イタリア、オランダの絵画ばかり見てきた私にとって、ポーランドの絵画、芸術は未知の世界でした。その土地の空気、色使い、モチーフからまだ知らない世界や文化に触れて、想像を膨らますことがとても楽しかったです。

とくに印象的だったのは風景画です。物憂い雰囲気を持ちながら、湿度の低いカラっとした空気の中で見る澱みのない綺麗な色彩をも感じられました。いつか現地に足を運んでカラッとした空気のわけを確認してみたいです。

「〈若きポーランド〉-色彩と魂の詩 1890-1918」(京都国立近代美術館)会場風景 撮影:河田憲政

(C)16世紀イングランド王国の作曲家による多声楽曲「40声のモテット」をもとに制作されたジャネット・カーディフのサウンドインスタレーション。

円形に置かれた40台のスピーカーから、合唱団の歌声が別々に聞こえてきます。展示の中心では、ソプラノ、アルトなど合唱のハーモニーを十分に楽しむことができるし、スピーカーの周りをぐるぐると歩けば、様々な音階の歌声をじっくり発見することもできました。美術館で目を閉じて、耳の感覚だけに任せて、その場の空間を楽しめたのがよかったです。

群馬の原美術館ARC、金沢21世紀美術館、長崎県美術館と巡回し、2025年12月13日から2026年2月15日まで丸亀市猪熊弦一郎現代美術館へ巡回するようです。ぜひ。

「ジャネット・カーディフ《40声のモテット》」(長崎県美術館)会場風景

年末特集「2025年回顧+2026年展望」は随時更新。

「2025年ベスト展覧会」
▶︎五十嵐太郎
▶︎平芳裕子
▶︎和田彩花
▶︎能勢陽子
▶︎鷲田めるろ
▶︎鈴木萌夏
▶︎大槻晃実
▶︎小川敦生
▶︎山本浩貴
▶︎倉田佳子
▶︎小川希
▶︎番外編:Tokyo Art Beat編集部

和田彩花

和田彩花

わだ・あやか 1994年8月1日生まれ、群馬県出身。 アイドル:2019年、ハロー!プロジェクト「アンジュルム」を卒業。アイドルグループでの活動経験をもとに、フェミニズムやジェンダーの視点からアイドル文化やアイドルの労働問題について発信する。音楽:オルタナポップバンド「和田彩花とオムニバス」、ダブ・アンビエントを基調としたアブストラクトバンド「L O L O E T」にて、作詞・歌・朗読などを担当する。美術:実践女子大学大学院博士前期課程(美術史学)修了。美術館や展覧会についての執筆やメディア出演する。