公開日:2025年12月16日

【2025年ベスト展覧会】平芳裕子(ファッション文化研究者)が選ぶ3展 |年末特集「2025年回顧+2026年展望」

年末特別企画として「Tokyo Art Beat」は、批評家やキュレーター、研究者、アート好きで知られる有識者の方々に、2025年にもっとも印象に残った展覧会を3つ挙げてもらった。選んだ理由や今年注目したアート界の出来事についてのコメントと併せてお届けする。(展覧会の順位はなし)

「生誕100年 森英恵 ヴァイタル・タイプ」(島根県立石見美術館)会場風景 撮影:編集部

平芳裕子が選ぶ「ベスト展覧会」

(A)「生誕100年 森英恵 ヴァイタル・タイプ」島根県立石見美術館

(B)
「戦後80年企画 衣服が語る戦争」文化学園服飾博物館

(C)「野村正治郎とジャポニスムの時代―着物を世界に広げた人物」国立歴史民俗博物館

ファッションに関わる展覧会が2025年ほど多く開催されたことはなかった。とくに、ブランド展の躍進が目覚ましかった。ブランドのものづくりと世界観を、建築家とのコラボレーションによりスペクタクルな空間に演出する。ブランドの知恵と資本が結集された展覧会は圧巻だった。また、大阪・関西万博開催とアール・デコ博100周年を記念し、博覧会関係のデザイン、ジュエリー、制服などを紹介する華やかな展覧会も注目された。

「アール・デコとモード」展(三菱一号館美術館)会場風景 撮影:編集部

数々の展覧会のなかで心惹かれたのは次の3つである。「生誕100年 森英恵ヴァイタル・タイプ」展は、森英恵の仕事を辿りながら日本のファッション文化の振興を描き出す回顧展であった。森の故郷である島根からの開催に意義があると考える。

「生誕100年 森英恵 ヴァイタル・タイプ」(島根県立石見美術館)会場風景 撮影:編集部

「衣服が語る戦争」展は、戦争関連の貴重な衣服資料が網羅的に展示され、戦時下の人々の感情が服を通して現代に迫ってくるような展示であった。「野村正治郎とジャポニスムの時代」展は、着物コレクターを通して京都の人的交流、日米の文化交流を描き出し、コレクション継承や博物館設立の関係にも学びがあった。これら3つは、衣服の歴史を私たちの生活と社会に結びつけ、未来へ開いていくような展覧会であった。

「戦後80年企画 衣服が語る戦争」(文化学園服飾博物館)会場風景 撮影:沼田学

*年末特集「2025年回顧+2026年展望」は随時更新。

「2025年ベスト展覧会」
▶︎五十嵐太郎
▶︎平芳裕子

▶︎和田彩花
▶︎能勢陽子
▶︎鷲田めるろ
▶︎鈴木萌夏
▶︎大槻晃実
▶︎小川敦生
▶︎山本浩貴
▶︎倉田佳子
▶︎小川希
▶︎番外編:Tokyo Art Beat編集部

平芳裕子

平芳裕子

ひらよし・ひろこ 神戸大学大学院教授。東京藝術大学美術学部芸術学科卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。博士(学術)。専門は表象文化論・ファッション文化論。著書に『東大ファッション論集中講義』(筑摩書房, 2024)、『日本ファッションの一五〇年―明治から現代まで』(吉川弘文館, 2024)、『まなざしの装置 ファッションと近代アメリカ』(青土社, 2018)など。