公開日:2025年12月15日

【2025年ベスト展覧会】五十嵐太郎(建築史・建築批評家)が選ぶ3展 |年末特集「2025年回顧+2026年展望」

年末特別企画として「Tokyo Art Beat」は、批評家やキュレーター、研究者、アート好きで知られる有識者の方々に、2025年にもっとも印象に残った展覧会を3つ挙げてもらった。選んだ理由や今年注目したアート界の出来事についてのコメントと併せてお届する。(展覧会の順位はなし)

コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ」(東京国立近代美術館)会場風景より、左から伊原宇三郎《特攻隊内地基地を進発す(一)》(1944)、宮本三郎《萬朶隊比島沖に奮戦す》(1945) 撮影:編集部

五十嵐太郎(建築史・建築批評家)が選ぶ「ベスト展覧会」

(A)「コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ」東京国立近代美術館

(B)
「玉山拓郎:FLOOR」豊田市美術館

(C)SIDE CORE 「Living road, Living space | 生きている道、生きるための場所」金沢21世紀美術館

今年は「終戦」というよりも、本来は敗戦から80年というべき年だが、その記憶をすっかり忘れ、再び隣国との好戦的な雰囲気が日本全体を覆いはじめた。だからこそ、多くの戦争画を一堂に集めつつ、メディアとの関係を視野に入れて、その背景を分析した東京国立近代美術館の試みは重要だった。当然、近代の戦争はあらゆるものを巻き込むから、写真、壁画、版画、漫画、雑誌、音楽、文学、建築など、様々なトピックにも触れている。なお、韓国では「光復」80年に関連する展示をいくつかみたが、残念ながら、日本において建築の分野では、戦争と関連づけた展示は企画されなかった。

「コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ」(東京国立近代美術館)会場風景より、左から、鶴田吾郎《神兵パレンバンに降下す》(1942)、田村孝之介《佐野部隊長還らざる大野挺身隊と訣別す》(1944) 撮影:編集部

個人的にアート作品による美術館への建築的な介入に関心をもっているが、玉山拓郎の展示は、ど肝を抜かれた。2、3階の5つの展示室を使いながら、これらを横断するたったひとつの黒い連続体しか存在しない。やがて図と地が反転することで、改めて谷口吉生の空間も強く意識することになった。

「玉山拓郎:FLOOR」(豊田市美術館)会場風景 撮影:編集部

SIDE COREの展示は、金沢21世紀美術館にストリートの感覚を持ち込む、痛快な展示である。もともと公園のような開放的な空間をもつ美術館だが、そのポテンシャルをさらに切り拓く内容だった。彼らにとって、3.11での気づきが重要な意味をもち、能登と美術館をつなぐプログラムを展開していることも興味深い。

SIDE CORE「Living road, Living space /生きている道、生きるための場所」会場風景 撮影:編集部

年末特集「2025年回顧+2026年展望」は随時更新。

「2025年ベスト展覧会」
▶︎五十嵐太郎
▶︎
平芳裕子
▶︎和田彩花
▶︎能勢陽子
▶︎鷲田めるろ
▶︎鈴木萌夏
▶︎大槻晃実
▶︎小川敦生
▶︎山本浩貴
▶︎倉田佳子
▶︎小川希
▶︎番外編:Tokyo Art Beat編集部

五十嵐太郎

五十嵐太郎

いがらし・たろう 1967年パリ生まれ。東京大学工学部建築学科卒、東京大学大学院修士課程修了。博士(工学)。2009年から東北大学大学院教授。第11回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館コミッショナー(2008)、あいちトリエンナーレ2013芸術監督。2014年、芸術選奨芸術振興部門新人賞。著作に『現代建築に関する16章』(講談社現代新書)、『被災地を歩きながら考えたこと』(みすず書房)など多数。