公開日:2025年9月30日

建築コレクティヴ「GROUP」インタビュー。展覧会の会場デザインでも大活躍する彼らが、展覧会の什器を引き継ぐプラットフォームを立ち上げた理由とは(聞き手:南島興)

個展「So Much Stuff(Table Tennis)」を機に、展覧会やプラットフォーム「ことの次第 / Way of Things」について聞く。 ポートレイト撮影:灰咲光那(編集部)

「So Much Stuff(Table Tennis)」会場風景 Photo:Naoki Takehisa

アートシーンでも活躍する建築家コレクティヴ、GROUP

豊田市美術館の展示空間を一変させた「玉山拓郎:FLOOR」や、全国3館を巡回した「LOVE ファッション ー私を着がえるとき」といった話題の展覧会の会場構成、資生堂ギャラリー「『オドル ココロ』資生堂クリエイティブワーク」の什器デザイン、1957年に磯崎新によって設計された建物を改修したギャラリー「WHITEHOUSE」の外構部分を整備した《新宿ホワイトハウスの庭》など、アートシーンでも引っ張りだこの建築コレクティヴ、GROUP。今年は大阪・関西万博で気鋭の建築家として《トイレ1 夢洲の庭》を手がけたことも記憶に新しい。

今年8月には六本木のPOST-FAKE projectsにて個展「So Much Stuff(Table Tennis)」を開催。展示会場を構成する「什器」としての役割を与えられた「ものたち」がレジャーとしての「卓球」を行うというコンセプトのもと、GROUPが手がけた什器に会場で新たな命を与えられていた。

本展の基盤となるのが、GROUPが2024年に立ち上げた、建築にまつわる「こと」を引き継いでいくサブスクリプション型オンラインプラットフォーム「ことの次第/Way of Things」だ。「設計」「施工」「竣工」「解体」の4つのフェーズで廃材を極力減らす新たな建築の可能性を提案するもので、建築/空間/場所に用いられる材料や部品=「こと」を、別の人へと引き継ぎリユースを促す。

今回は元横浜美術館学芸員の南島興が本展を訪れ、展覧会や「ことの次第/Way of Things」について、GROUPのメンバーのうち5名に話を聞いた。【Tokyo Art Beat】

什器流通プラットフォーム「ことの次第」について

── 一言でいえば、本展は什器のための展覧会ですね。GROUPがこれまで改修や展示などで製作してきた什器を一時的に集めて仮設的に展示し、また卓球台を作って鑑賞者も参加できるプレイフルな状況が作られています。はじめに、展示物となっている什器を集めて流通させているプラットフォームである「ことの次第」について教えていただけますか。

井上 「ことの次第」は展示什器を引き継ぎを行うプラットフォームです。展示期間中を什器の保管期間と考え、展示会期中に図面をサブスクリプションに登録してくれた方に共有し、引取り手を募り、什器を引き継いでいくことができます。

篠崎祐真 「ことの次第」のプロジェクトをメインで担当している篠崎です。このプロジェクトは2024年8月にローンチしてちょうど一年がたちます。一年間、実働してみて、「ことの次第」でしか会えない方がいることを知りました。施工や倉庫を貸してくださる方、あとは什器類を利用したいと言ってくれる方など。展示の会場構成や什器の設計の依頼者だけではない、様々な展覧会に関わる人たちと接点を持てているのは楽しいですね。

「So Much Stuff(Table Tennis)」会場風景 Photo:Naoki Takehisa

──「ことの次第」に集められてる什器は基本にGROUPが製作したものですか?

篠崎 本来のサービス内容としては、あらゆる「ことの次第」に参加した人は什器も受け取れるし、什器を渡すこともできるようになっているのですが、現状では、GROUPの製作物を保管、再利用することがメインの仕事になっています。

──たんにものを流通させるだけではなくて、図面のデータも作成されていると聞きました。

篠崎 設計や施工において、じつは図面は担当者によって書き方が違ったりするので、それをGROUPが一度翻訳して、共通のフォーマットで図面化しています。あわせて、ある什器が過去に誰がどこの展示で使用したかもわかるようなデータを作成しています。

GROUPより、篠崎祐真、曽根巽 「So Much Stuff(Table Tennis)」会場にて

──なるほど。たとえば、公立美術館が「ことの次第」を利用したい場合に気にかかるのは、什器の図面、ほかの使用歴だと思うので、そうしたデータが揃っているということは、信用の担保になりますね。いつから、このプラットフォームの構想が始まったのでしょうか。

井上 問題意識は、2024年にマイナビアートスクエアで企画した「島をつくる」展から持っていました。そのとき、会場構成の仕事を多く受けていたのですが、僕らが頑張って設計、製作しても、結局会期の終了とともに廃棄されてしまう。これまでも僕らの工房に保管もしていたのですが、それもスペース的に限界があるので、什器を再利用して流通させることが必要だと感じていました。またGROUPの受ける仕事が、会場構成と建築設計、インテリアとそれぞれに分離していて、それらをなんとか接続するようなことはできないかとも思っていました。いまのところ「ことの次第」は、展示什器の共有システムですが、ゆくゆくは再開発が始まるまで塩漬けにされた空きビルの建材や空き家の部材も集めてきて、僕らが図面を作成して、それをみんなに共有し、新築を建てたり、改修したり、展示を設計してみたいですね。

GROUP「島をつくる | Planning Another Island」 Photo:Naoki Takehisa

──6月まで美術館で働いていた身として、「ことの次第」はきわめて重要な活動に思いますが、建築の方面では先行事例はあるんですか?

井上 ベルギーのローター(Rotor)という設計事務所ですね。アトリエワンの塚本由晴さんにさきほどの問題意識を伝えたら紹介してくれました。ローターは建材を流通させるシステムを作っていたのですが、僕らもそういった活動できるかもしれないと思い「ことの次第」を始めました。

曽根 この十年ぐらいでサーキュラーエコノミーと言われる、廃棄物を最小限にすることを目指すカルチャーが成長しています。それは経済的な投機でもありますが、建築的にもローターのほか、イギリスのアセンブル(Assemble)やオランダのスーパーユーススタジオ(Superuse Studio)をはじめ、世界的なひとつの流れなのだと思います。ただ、東京は循環する各要素の全部のサイクルが早くて、必ずしも展示、住宅、オフィスビル間のヒエラルキーがあまりない。たとえば、新築の建物が数か月で壊されちゃうことが、たまに起こるぐらいのスピード感がある。こういう風に、あんまり差がないっていうのは特殊だと思っています。そういう意味では、什器のことも、内装のことも、新築のことも、そのスピードが違うだけで、ものをどうやって流通させるか、という視点でつなげて考えられるんじゃないかと思ったりします。

 「So Much Stuff(Table Tennis)」会場にて

なぜ卓球が選ばれるのか

──今回はGROUPの展示というより、正確には「ことの次第」というプラットフォームについて展示をするという変わったかたちになっていますよね。

井上 そうです。「ことの次第」で展示を行ってくれないかという依頼の元展示をつくっていきました。最初、会場のある六本木がペットショップの多い地域なので、ペットショップをテーマでやりたかったんですよ。それこそプレイフルな雰囲気をペットショップで見せておいて、ある一定の期間が過ぎると、売り物だった犬猫たちがかわいそうなことになっていくという状況が、什器にも言えるのかなと。また都市の中の可愛いペットのような建物という意味で「ペットアーキテクチャー」という概念があって、そのマイナス面が見える裏ペットアーキテクチャーみたいな展示にできるといいのかなという話は内部でしていました。でも、それを前面に押し出すのは、ちょっとペットたちに申し訳ないなという気持ちになりまして...もっとネガティブな方向で言えば、ことの次第で集めた什器類を、この会場で壊すみたいなアイデアまでありました。ただひたすら悲しい展示になっちゃうと思って、これもやめました。それでいまのかたちである、もとは単一の目的のために作られた什器たちがまったく別の役割を与えられて、楽しんでいる、つまり什器が楽しんでいるという展示にする方向性になりました。ただ展示には卓球台もあって、僕も見に来た人と卓球するのは超楽しいんですけど、それが終わったら、什器たちはいつ身に降ってもおかしくない死を待つしかない。

「So Much Stuff(Table Tennis)」会場風景 Photo:Naoki Takehisa

──みんなで卓球をすることで弔う?

井上 そうですね。楽しむ、かつ弔うことができるといいのかなと思いました。

──展示什器はふつう会場にあっても、鑑賞者からは見えないほうがよいものとして基本的には作られています。ただ「ことの次第」っていうプラットフォームがあり、このように一時的に活用されることで、はじめて、ものへの哀れみのような感情が我々に生まれるのかもしれません。いま話にも出ましたが、まさにいちばんわかりやすく、プレイフルでハッピーな雰囲気を醸し出しているのが、卓球台ですね。現代アートの展示ではなぜか好まれるモティーフですが、ここでなぜ卓球なのでしょうか。

井上 やっぱり、それが建物を壊さないことですよね。会場の建物や展示している什器にボールいくらぶつけても大丈夫だし、ガラスも割れないということがあります。

──なるほど。そういう視点では考えたことがありませんでした。

井上 このプロジェクト自体は一応スポーツシリーズとしても続けたいと思っていて、つぎは会場に応じてバスケやサッカーのフィールドをつくるかもしれません。共通しているのは、什器たちがスポーツをするというイメージです。そのうえで、いま「ことの次第」で保有している什器を見て、どういうスポーツができるかなと想像もしました。素材のサイズや什器を組み立てたときの高さからして、ちょうど卓球台ができるんじゃないかなという感じです。

ちょっと飛躍するかもしれませんが、ある空間を埋めるルールとして、アートとスポーツって似てる気がしています。つまり、あんまりものを詰め込まなくても、空間を埋められるんですよね。

──いわゆるインスタレーションといわれる表現は特にそういう意識で作られていると思います。

井上 そう。サッカーは白線を書くだけで、ほかに何も置いちゃいけない空間になります。アートの場合、壁に平面的な何かを置いて、壁に囲われた中央の空間には何も置かないようにすると、展示室が発生するじゃないですか。だから空間を占有する仕組みとしては、似ていると感じています。卓球が好まれるのも、空間の占有度合いのちょうどよさがあるのではないでしょうか。

「So Much Stuff(Table Tennis)」会場風景 Photo:Naoki Takehisa

什器たちに楽しんでもらいたい

──ちょっと話を戻すと、井上さんが最初に話していたことで、本展には人がプレイするというより、その什器たちがプレイして楽しそうというセンスがありますよね。この視点はGROUPの活動を見るうえで重要な気がしました。そこでは人の存在は、什器を運ぶ者としてあり、什器の方がプレイヤーとしてとらえられているという感覚です。夢洲の生態系を保全し展示することが中心にあるように見える万博の《トイレ1 夢洲の庭》にも共通していえるはずですが、いかがでしょう。

トイレ1 夢洲の庭 Photo:Kei murata
トイレ1 夢洲の庭 Photo:Kei murata

井上 GROUPで設計をした「道具と広い庭」という住宅では、使用する人というよりは、道具たちがどういうふうにその庭と共に振る舞うか、ということを主題にしていました。もちろん人をないがしろにしているわけではないんですけど、道具を主題とすることで、属人的に特定の人に責任が押し付けられたりしない仕組みができないかと考えています。そういう流れの中で、今回も人が主体ではなく什器、つまり今まで目にむしろ触れなかったものたちに楽しんでもらう、什器たちに楽しんでもらう。こうした視点の変化みたいなものが起こるといいかなとは思っていました。もの中心と言えばいいのか、それはたしかにGROUPの癖かもしれません。

──もの中心とまで言わないにしても、人と物のネットワークを重視しているとはいえるかもしれません。さっきの責任の問題は非常にわかりやすい話ですね。誰が責任者かを曖昧にする、もしくは分有されてしまうような空間をあらかじめセットしていくことによってみんなみんなの問題だよねって考えるようになったりする。それは、契約書の書式や業務分担表などの文書類にも適応できる考え方だと聞いていて、思いました。

曽根 ネットワークという考え方は、アクター同士の公平性と結びつけて考えることもできますが、実際には結局あるシステムをセットアップしたひとがいちばん権力を持っているとも言える。その事実はネットワークって言葉を使っている限り、覆い隠されていると思います。

──その通りですね。建築の空間としてはそのなかで、それだけ公平性を保ちながら、集団生活や集団制作が成り立つのか。こうした問題意識もGROUPにはあるように思います。

井上 空間としては人を中心に考えないことは、ひとつ言えると思います。あとは「未来」のようなポジティブな言葉によって見えなくなってしまうことを取り上げること自体が、設計活動の意義として考えています。みんながどう思っているのかは知らないけど。

「So Much Stuff(Table Tennis)」会場風景 Photo:Naoki Takehisa

GROUP的な視点とは

──「島をつくる」展や万博の《トイレ1 夢洲の庭》、また《新宿ホワイトハウスの庭》を振り返ると、床、大地、基礎へのまなざしというかたちで共通した関心があるように見えます。いろんなプロジェクトを始めるときに、GROUPとして、こういうをところ気にしてるというポイントはありますか?

新宿ホワイトハウスの庭 Photo:Yurika Kono
新宿ホワイトハウスの庭 Photo:Yurika Kono

井上 個人的には、とても大きな空間をつくるために必要な設計上は小さくまとめられる空間に可能性を感じています。例えば、掃除用具倉庫や監視室などの空間です。一般的な設計においては、そういった空間は最小限にして、端っこにまとめて見えないようにします。でもその空間がないと、大きな空間は成立しないという場所。それらを再評価すると、みんなから見えなくなっている空間を再評価することによって、その大きな空間のあり方自体が変化するんじゃないかというふうに思っています。

齋藤直紀 GROUPらしさということでいえば、最近、新しい展示のためにリサーチするなかで、多木浩二の特に都市に関するテキストを読んでいます。「生きられた家」は有名だけど、1975年頃ですが、多木は新宿が構造はわからないけど、すごい盛り上がっている状態をみて、人々の欲望や消費熱のような経験が積み重なって、その熱が生まれているのではないかと論じようとしています。都市は、家と違うし、流動的で、また同じ人がずっと使うわけじゃないから、うまく論じられていない気もしますが、ただ個人的には「経験」という言葉で、なにか語れるんじゃないかなと思っています。GROUPのWHITEHOUSEの「手入れ」展や熱海の「浴室の手入れ」はバランスのよいプロジェクトだったと思っています。新築の建物がバンって建つと、それまでのその土地にあった経験的なものがまた一から始まっていくみたいなリノベーションの形があるとすれば、GROUPとしては周辺の環境も含めて、そこにかつてあった過去の時間を引き受けていきたい。

GROUPより、齋藤直紀 「So Much Stuff(Table Tennis)」会場にて

柏﨑健汰 僕は最近、個人の仕事でデパートに入っている商店などの内装図面を描くことが続いています。こういう商店は、時間でいうと、ものすごい短いスパンで撤去されては新しい店舗になる。それが分かりきっている上で、豪華絢爛なものにするのではなくて、取り外し可能なものを装飾して取り付けることで、その店舗が撤去された後も、例えばそのお店がどこかで新店舗出した時にまたそれを取り付けることで、斎藤さんが言ってた時間も取り込んでいくことはできるんじゃないかと思っています。スプリンクラーや煙感知器、点検口は、店舗が変わるごとにポイポイ捨てられてちゃうんですけど、そういうものを捨てずに一旦取っておいてもらい、今の店舗とキメラ的に合体させていく。こういう実践は、そのまま「ことの次第」にはつながってくるのかな。

篠崎 さっきからみんな個人的なことを話していて、全然定まっていない気もする。でも、それぞれ問題意識を持って、各プロジェクトで誰が参加するかによって変わる、その感じがGROUPっぽいのかも。

──GROUPという名前自体に匿名性が込められているので、この定まらない感じがGROUPの個性とも言えますが、とはいえ、輪郭はある気がしています。たとえば、齋藤さんのリノベーションという言葉が気になりました。公共建築の時代があって、住宅建築の時代があり、いまはリノベーションの時代であると、よく言われます。外から見て思うのは、建築はクライアントあっての業種だと思うので、時代の要請には応える必要がありますよね。サーキュレーターエコノミーも同じで、たしかに社会的な必然性があると思うのですが、当の建築家はどれぐらいその仕事をポジティブに捉えているのでしょうか。時間を取り込むための改修をし、什器のプラットフォームの「ことの次第」があり、GROUPも広くいえばリノベーションに携わっていますが、いかがでしょうか。

曽根 リノベーションといっても、建築家によってプレゼンテーションの仕方が違います。これは意外に思うかもしれないですけど、GROUPに共通しているのは、じつはかなり実務的な集団だということで、僕はすごい面白いと思っています。建築に内在する問題から組み立てていくという発想がベースにあると思います。僕から見ていると、井上、斎藤の一回り上の世代は外在的な問題から建築を組み立てようとする人が多い。だからコストもかかるので、守衛室みたいなその絶対に表に出てこない社会と接続しない部分には全く注意を払われない。それが下の世代になって、建築にもともと存在している秩序にポテンシャルを感じている人が増えているような気がしています。夢洲の庭も、万博のその開発の問題に接続する社会批評的な側面はあるのだけど、扱っているものは基礎とか庭だったり、また「道具と広い庭」では所有者と生活のスタイルへの提案でありつつも、それを実現するために取った方法は、架構とかグリッドであったりします。その建築にもともとある秩序とか、建築にとって必要不可欠なものを、そのまま素直に考えるみたいな態度が、僕はGROUPとして好きなところかなって思います。

──建築に内在している問題から考えるというのは意外に聞こえますね。というのも、GROUPの活動は、現代アートっぽいとよく言われると思います。でも実際は、建築に内在している構造や基礎的な問題を解決しようとしている。事前に「コミュニティ」についてもお聞きしたいと思っていました。それこそ世代の話でいうと、山崎亮さんのコミュニティデザインがよく知られていますね。GROUPの活動を見てみると、副次的にはそこにコミュニティが生まれるのだと思いますが、はじめからコミュニティを作ろうとはなっていない気がします。べつに卓球でコミュニティが生まれるわけではないですよね。

井上 コミュニティを積極的につくることが良いことであるということに疑問を感じることがあります。そこに取り残される人もいると思っていて、建築の設計を行う集団として、建築の内在している課題を見つめることで、それがアウトプットとなり、あくまでも建築設計として展覧会や建物につながっていくことを考えています。  

「So Much Stuff(Table Tennis)」会場風景 Photo:Naoki Takehisa

建築展と図面作成能力

──シンプルな質問ですが、建築コレクティブであるGROUPが展覧会に期待しているのはどんなことですか。建築の展覧会としては、オーソドックスな手法では図面と模型、それらの説明のテキストが並ぶ資料的な展示があり、これらはおそらくルネサンス期に確立した建築家とは図面を作る職能である考え方に依拠していると思います。対して、会場の空間構成も含めてデザインする、建築展のモデルも確立されつつあるのが、現状ですね。GROUPの建築の展覧会はこうした建築展のモデルのなかで、どんなかたちを目指しているのかお聞きしたいです。勝手な印象で、少なくとも図面とその解説という展示のイメージは湧かないのですが、いかがでしょう。

井上 インスタレーション的な展示にも惹かれますが、いまは建築展における3点セット、つまり図面、模型、写真を、僕は面白いと思っています。それらによって、いままで建築ではなかったものを、むしろ建築化できるんじゃないか。ちなみに本展の入り口にも、什器を組み合わせた構造物の図面が1枚貼ってあります。

図録の表紙部分のポスター

──建築とその模型や図面があるという関係ではなく、本来、建築としてとらえられていないもの、それは現象や関係性かもしれませんが、そうしたものの図面を作成することで、逆にそれらを建築的なものとして可視化してみるということですね。

井上 一般的にはまず、図面があって、それに沿うように建築が立ち上がるわけですが、本展の図面は逆になっているのも面白いと思っています。什器を組み合わせたあるボリュームが展示会場にできてから、それを図面化して、アーカイブもされていきます。こうした図面化するプロセスをみんなで共有できる場としての展覧会は、僕はGROUPにとって重要な場だと思っています。

篠崎 僕もGROUPは意外と図面を重要視している気がします。たしかに図面を解説することは少ないですが、最初にも話したように「ことの次第」での図面の作成と共有をしていますし、建築を学んだ者が持っている技術として図面を描く能力はもっと活用できると思っています。 

書籍『P-F BOOK / GROUP ―So Much Stuff』の刊行

──本展のユニークな点は書籍『P-F BOOK / GROUP ―So Much Stuff』が同時出版されていることですが、これまでもGROUPはインタビューをまとめた『ノーツ』など書籍の刊行してきています。今回の展示にあわせた書籍の内容についても教えてください。

『P-F BOOK / GROUP―So Much Stuff』
『P-F BOOK / GROUP―So Much Stuff』

井上 本書はGROUPがいままで設計してきた一点限りのもの、大量生産品ではないものをまとめたカタログになっています。内容としては、図面と写真、簡単な説明があり、ゲスト寄稿者として、美学研究者の鈴木亘さんにGROUP論も執筆していただいています。

柏﨑 ものとして見ると、じつは表紙のように見えるオレンジの紙は、ポスターになっています。そうするとまた買ってくださった方の家にひとつものが増えます。さらに別冊も取れるからひとつ買うと3つものが増えるという仕掛けになっています。

井上 GROUPのようなとても小さい設計事務所でも、仕事で生まれた什器などを集めたらすごい量なんだ、ということがよくわかります。まずは、この建築設計が大量のものをつくってしまう実態を見ていただいて、みなさんの何かを考えるきっかけになればいいなと思っています。現在は本展会場で販売していますが、会期終了後も購入できるように準備中なので、ぜひ来れなかった方もお手にとってください。 

GROUPより、柏﨑健汰、井上岳 「So Much Stuff(Table Tennis)」会場にて

建築の可能性と日本の形

──最後に今後の展望について聞かせてください。以前、「島をつくる」展のステイトメントで、「建築は終着地点への事物の流れの一時的な固定であり、そして、建築をつくることと解体することはどちらも事物の流れを生み、島をつくる同様の事象である。」と書かれていたことが印象に残っています。本展はまさに什器にとってはほとんどの場合、終着点である展覧会が什器がまだ生きられるかもしれないという希望といつ訪れるともしれない死の気配が共存する中継点として使われています。大阪・関西万博という国家事業への参加も経て、建築への考え方やビジョンに変化があったのでしょうか。

井上 ありがとうございます。そうすることで、小さな建築プロジェクトでも、大きな拡がりを持ち得ることを問うてみたかったのです。答えとして適切か分からないですが、最近は建築として、国の形を島という形式を通して考えたいなと思っています。例えば、選挙に行くことだけが政治との関わりではなく、設計者としての関わり方があるはずです。国の輪郭やその形を生み出す流れを設計することで、国の輪郭の設計に介入できる可能性があるかもしれないと、なんとなく思っています。

建築の設計だけではなく、たとえば、バードウォッチングのような、ただ何かを意識的に眺める行為だけでも国の輪郭が変化するかもしれない。こうした視点をもっと意識的に設計に取り入れていくことが大事だと思っています。

柏﨑 国といっても、たんに物質的な大きさだけではなくて、都市に矢印一本置くだけでも建築として機能する可能性がある。建築をどう定義するかによりますが、先輩方たちが大きいものを立てて、都市を変えてきたわけですけど、そうじゃない建築のあり方については、僕ら世代が考えなければいけないんじゃないのかなと思いました。

井上 たとえば、最近、国内で開催された展覧会が東南アジアまで巡回するようになったという話を聞きました。ひとつの要因は、美術館で温湿度などを管理するレベルが上がり、安全に美術品の輸送や保管ができるようになったことがあるそうです。ただそれだけの変化で、日本、東南アジアの歴史を含めたひとつながりの企画が行われていくと、国の関係性や国の見え方が変わってくると思います。展示会場の施設の視点から、こういう広がりが出てくるのは大事なことで、これも建築家の仕事だと考えていきたいです。

──最後は日本列島論までたどり着くような壮大な話になりましたが、GROUPの過去から、現在、そして未来のビジョンまでお聞きできてよかったです。本日はありがとうございました。

「So Much Stuff(Table Tennis)」会場にて

書籍『P-F BOOK / GROUP―So Much Stuff』

2021年よりアーティストのドキュメンタリー映像、出版、展覧会を通じて、アート・カルチャーの新たな動向を発信してきたプロジェクト「Post-Fake」(https://postfake.com)より、出版と展覧会を通じてアーティストの活動を紹介するアートブックシリーズ「P-F BOOK」が創刊。分野やメディアを横断し、時代の変化の中で独自の表現を開拓する気鋭のアーティストに焦点を当て、アーティスト自身のポートフォリオ / 作品集として出版し、展覧会を開催する。第1弾では建築プロジェクトを通して、異なる専門性を持つ人々が仮設的かつ継続的に共同できる場の構築を目指し、設計・リサーチ・施工をする建築コレクティブ・GROUPにフォーカス。全28プロジェクトでつくられた「ものたち(Stuff)」の図面と記録写真、解説テキストが掲載される初のアーカイヴとして刊行。

オンラインにて販売中:https://products.postfake.com/products/p-f-book-group-so-much-stuff


GROUP
建築プロジェクトを通して、異なる専門性を持つ人々が仮設的かつ継続的に共同できる場の構築を目指し、設計・リサーチ・施工をする建築コレクティヴ。主な活動として、設計・施工「夢洲の庭」(大阪府、2025)、設計・運営「海老名芸術高速」(神奈川県、2021)、設計・施工「新宿ホワイトハウスの庭」(東京都、2021)、企画・編集「ノーツ 第一号 庭」(NOTESEDITION、 2021)、設計「EASTEAST_TOKYO」(アートフェア会場構成、2023)、グループ展「Involvement / Rain / Water passage」(金沢21世紀美術館DXP展、2023)、個展「手入れ / Repair 」(WHITEHOUSE、2021)など。

HP: https://www.groupatelier.jp
IG: @groupatelier


南島興

みなみしま・こう 1994年生まれ。横浜美術館学芸員。東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了(西洋美術史)、博士課程後期退学(美学)。修士論文はジョルジョ・モランディについて。全国の常設展・コレクション展をレビューするプロジェクト「これぽーと」主宰(2020-)。時事批評「アート・ジャーナリズムの夜」主宰(2021-2022)。旅行誌を擬態する批評誌「LOCUST」編集部。2023年に『坂口恭平の心学校』(晶文社)刊行。ほか美術メディアへの寄稿多数。