会場風景
アートフェア「EASTEAST_TOKYO 2025」が東京・竹橋で2年ぶりに開幕した。同フェアの開催に合わせて、会場の科学技術館内、東京・北の丸公園第一駐車場には、黒く覆われた建造物が登場。
GILLOCHINDOX☆GILLOCHINDAE(ギロチンドックス・ギロチンディ:以下、GCD☆GCD)が手がけるプロジェクト「獸(第3章 / EDGE)」の会場だ。
「獸」はGCD☆GCDが2021年から主宰する、現代アートの展示とライブパフォーマンスを組み合わせたアートプロジェクト。映像作家の太郎とともに制作した映像作品が毎回発表され、東京の青年をモチーフにした「黒い獸」をめぐる物語が、1年ごとに展開される。
会場に入ってすぐ鑑賞者を迎えるのは、プロジェクトの核である映像作品。作家が幼少期を過ごした多摩川の河川敷を舞台に、自死してしまった友人を探しに河川敷へと向かう青年が主人公の物語である。
物語の骨子や、世界観を感じ取りつつ先へ進むと現れるのは、映像にも登場した河川敷の風景。約6万本のすすきによって形成される迷路のような空間の先では、砂利や、川、15mの土手なども再現され、ノスタルジーと異世界的な美学の組み合わさった作品世界が広がっている。
インスタレーションの中には、プロジェクトに初期から携わっている彫刻家、横手太紀や、クィア、非西洋中心主義をテーマに活動を行う磯村暖、海野林太郎によるキネティックな彫刻作品も配されている。筆者が訪れた初日(7日)の夜にはすでに多くの人が集結し、さながらフェスのような雰囲気に。訪れた人びとは、すすき原を探索したり、作品を興味深げに見つめたり、土手に寝そべって目当てのパフォーマンスを待っていたりと、おもいおもいのスタイルで時間を過ごしていた。
4回目の開催となる同プロジェクトについてGCD☆GCDは、「今回は作品を作るというよりむしろ、空間を演出することに焦点を当てています。訪れてくれた人がすすきの海の中で、様々なアーティストの作品やパフォーマンスと偶然出会うような体験を作り上げたかった」と語る。
ビル1棟をまるまる使い、複数の作家による作品をひとつの物語に沿って並べた前回の「獸(第2章 / BEAUTIFUL DAYDREAM)」に対して、今回行われた第3章は「展覧会」としての側面が薄く、作家自身が制作した作品も出品されていない。しかし、第2章でも用いられていた身体性を強く喚起する展示空間の構造や、時代の空気感をとらえる視点は、「獸」というプロジェクトから一貫して感じられるものだ。
幼少期の思い出せそうで思い出せない記憶——砂利道をすすむ時に足を取られる感覚や、コンクリートで埋め立てられた土手から転げ落ちそうな恐怖、すすき原を歩き回る時の胸の高鳴りなど——を呼び起こす装置として機能する河川敷のインスタレーションは、作家本人が「風景のアーカイヴ」と表現する、同プロジェクトの大きなテーマに共鳴している。
また会期中は、Tohji、カネコアヤノ、JUMADIBA、JUN INAGAWA、Otagiri with DJ MAYAKU、豊田利晃、布施琳太郎など、作家と親交のあるアーティストを中心に、ジャンルや時代といった枠組みを超えた様々なパフォーマンスが繰り広げられる。現代のアート、カルチャーシーンを代表するアーティストのラインアップは、拡大するプロジェクト規模への率直な驚きと、今後の展開の読めなさを同時に感じるものだ。
パフォーマンスのタイムスケジュールは公開されておらず、どのようなアーティストと遭遇することになるのかはあくまで運任せ。遠い記憶のなかにある情景や感触と、現代性が重なりあう不思議な体験ができる4日間を見逃さないでほしい。なお、チケットは日時指定制。詳細は公式ウェブサイトをチェック。
「獸(第3章 / EDGE)」
会期:11月7日(金)〜11月10日(月)
会場:北の丸公園第一駐車場 東京都千代田区北の丸公園2-1
開場時間:11月7日 12:00〜21:00、11月8日 12:00〜19:00 、11月9日 12:00〜19:00、11月10日12:00〜17:00
入場料:日時指定チケット ¥2,000、4-day入場券(先着300名):¥5,000
artsticker.app/events/101444
井嶋 遼(編集部インターン)