公開日:2025年4月18日

大阪万博フランスパビリオンをレポート。LVMHの美学と職人魂を堪能する空間にロダンや真鍋大度の作品も(文:原久子)

大阪・関西万博が大阪の夢洲にて4月13日〜10月13日に開催。LVMH協賛のもとルイ・ヴィトン、ディオールなどのクラフトマンシップを紹介するフランスパビリオンをレポート

ルイ・ヴィトンの展示 PHOTO CREDIT:LOUIS VUITTON

大阪・関西万博が大阪の夢洲にて4月13日〜10月13日に開催されている。フランスパビリオンは、LVMHがメインパートナーとして協賛。海外パビリオンのなかでも一際大規模な建築を誇り、ルイ・ヴィトン、ディオールの常設展示、セリーヌ(4月13日~5月11日)、ショーメ(9月1日~10月13日)の特別展示を展開する。そんな本パビリオンの見どころをお届け。【Tokyo Art Beat】

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最新技術とクラフトマンシップを見せるフランスパビリオン

パビリオン全体を通して妥協を許さないクオリティの高さにフランスパビリオンの本気度が伝わってきた。総監督のジャック・メール(COFREX社長)が記者会見で述べたステイトメントでは、日仏両国が重ねてきたつながり、最新技術と伝統的なクラフトマンシップ(職人魂)、ヒューマニティー(人間らしさ)の融合を強調。邦訳されたテーマは「愛の讃歌」と記されている。フランスと日本の深い絆を示す8つの芸術文化を巡る旅にこのパビリオンを訪れる人々を導く。このふたつの文化間の愛への真の賛歌という意味合いとなろう。

フランスパビリオン
フランスパビリオンにて、タペストリー《森にたたずむヤックルとアシタカ》と、ノートルダム大聖堂 キマイラ像 撮影:編集部

ルイ・ヴィトン:重松象平、真鍋大度

2階からスタートする展覧会では「鼓動 PULSATION」と書かれた赤く光るサインに迎えられる。『もののけ姫』の一場面を描いた《森にたたずむヤックルとアシタカ》のタペストリーとノートルダム大聖堂を守るキマイラ像から、展覧会という物語に私たちは没入することが出来る。

光の点滅とサウンドを感じる薄暗い空間から、一気に明るく輝くルイ・ヴィトンの技を伝える空間へ。ルイ・ヴィトンと建築家・重松象平とのコラボレーションによる展示では85個のトランクを用い、開かれたトランク中にものづくりの過程を紹介。

ルイ・ヴィトンの展示 PHOTO CREDIT:LOUIS VUITTON

次に真っ白のトランクを幾何学的にジョイントしスケルトン状の巨大な球体が回転する部屋全体に真鍋大度がCG、実写を用いながら地球を大きく俯瞰した眼差しでとらえた自然を映し出す映像インスタレーションを披露。作曲家でもある真鍋は普段はコンテンツ制作ではなく研究に重きをおくIRCAM(国立音響音楽研究所)が音楽を担当したこのパビリオンの特性に惹かれたようだ。実験的でありつつ普遍的な要素を併せ持つ本質的なものを見せようとする場に関わることができたことに充実感を持ち、見習うべき精神性の高さ、フランスの文化力を実感したと述べてくれた。

ルイ・ヴィトンの展示 PHOTO CREDIT:LOUIS VUITTON

途中オーギュスト・ロダンの彫刻作品の展示を点在させ、ポンピドゥー・センター屋上でのダンスパフォーマンスの臨場感溢れる記録映像といった身体にまつわる真逆の静と動の鼓動も加えながら、来場者はひとつの世界観の中にすっぽりと包まれる。

フランスパビリオン会場風景 撮影:編集部

ディオール:高木由利子、吉岡徳仁

ディオールの展示にはモードの真髄をとらえた高木由利子の写真が大きく飾られ、吉岡徳仁による「メダリオン チェア」が実物のドレスとの間を紡いでゆく。

ディオールの展示 Photo: Victor Marvillet
ディオールの展示 Photo: Victor Marvillet

ガストロノミーということもアートの一部と考えられ、ワインの産地アルザス地方の葡萄の生育からワインづくりをアニメーションで紹介。「奇跡の庭園」と呼ばれる中庭にはプラントハンターの西畠清順がプロバンス地方で探し出してきた樹齢千年のオリーブの樹が堂々と鎮座し、生物科学の観点からも文化への眼差しを注いでいた。

樹齢千年のオリーブの樹木の前で、プラントハンターの西畠清順(左) 撮影:筆者
フランスパビリオン会場風景 撮影:編集部

セリーヌ:輪島の伝統漆芸×アート

4月13日から1ヶ月の限定展示を行っているセリーヌはメゾンのシグネチャーでもある「トリオンフ」を輪島の伝統漆芸技術を汲むアート集団彦十蒔絵とのコラボでアート作品へと昇華させ、私たちの目を楽しませてくれる。

彦十蒔絵 トリオンフ 黒 金沢市 木彫漆塗り平蒔絵仕上げ 松竹梅モチーフ
セリーヌの展示 撮影:編集部

アートディレクターを務めたのはスタジオGSM Projectとアーティストのジェスティーヌ・エマールだ。エマールは「体験全体をシンクロさせる音楽のテンポとして、心臓の “鼓動”を、展覧会のコンセプトとして具現化させた。革新的な現代の讃美歌といってもいいエレクトロリミックスの曲が館内に流れる。“鼓動”は視覚的なシグナルとなり、私たちが歩く会場内で実体化する。鼓動は植物、動物、人間といった生物間の共通項でもあり、人間を生態系の中心にもある。会場内の光、音、映像、動きが鑑賞者の感性に響き、このパルス信号の演出が未来へのドライブのような力強い衝動に繋がってゆく」と語る。また、博物館にあるような解説パネルなどは避け、万博という国も超えた不特定多数を対象にする場だからこそ誰にでも視る・聴くという体験から直観的に理解できる展示を心がけたという。

フランスパビリオン会場風景 撮影:編集部

ノートルダム大聖堂と首里城を結ぶ

印象に残っている展示のひとつとして、場所や意味合いは異なるが、共通する要素から展開させたインスタレーションがある。2019年4月にフランス国民にとって心の拠りどころであろうノートルダム大聖堂が火災に遭った。同じく2019年10月に首里城(沖縄)の9棟ほとんどが焼失した。ノートルダムと首里城、広島の宮島とモンサンミッシェルなどこのようなシンクロを想像したこともなかったが、デジタルテクノロジーの最先端を競うように見せようとするのではなく、それをひとつのツールとして、エレガント且つしなやかに心に響く作品が、ふたつの国の歴史、文化、さらには自然の有り様なども含め来場者に様々なことを語りかけてくれる。

フランスパビリオン会場風景 撮影:編集部

このフランス館は今回の万博のなかでも必見中の必見のパビリオンだろう。未来を想像する日仏のアーティストたちがひとつのビジョンのもとで共振している。

原久子

はら・ひさこ アートプロデューサー、ライター、大阪電気通信大学教授。京都生まれ、大阪在住。主な共同企画に「六本木クロッシング2004」(森美術館、2004)、「Between Site and Space」(トーキョーワンダーサイト渋谷、2008+ARTSPACE Sydney、2009) 、「あいちトリエンナーレ2010」(愛知県美術館ほか、2010)ほか。共編著に『変貌する美術館』(昭和堂)など。