左から、みなと芸術センター プログラムディレクター 相馬千秋、俳優 サヘル・ローズ、クリエイティブディレクター 箭内道彦、清家愛 港区長 撮影:山口雄太郎
2027年秋に浜松町駅前に開館する「港区立みなと芸術センターm〜m(むーむ)」のプロローグ・イベントが、11月30日、虎ノ門・ニッショーホールで開催された。まだ建設中のm〜mのコンセプトや方向性を、トーク、パフォーマンス、ワークショップなど多彩なプログラムを通して紹介する一日となった。

トークに先立ち、みなと芸術センター開館準備室の宮崎刀史紀が、m〜mの成り立ちと施設の全体像を紹介した。m〜mは、かつて田町で構想された文化施設計画が震災後に一度中止となり、その後、浜松町二丁目の再開発と結びつくかたちで再び動き出したプロジェクトだ。浜松町駅直結の高層ビル内に、600席のシアターやコモンスペース、複数のスタジオやアトリエなどを備え、「鑑賞・参加・創造」が交差する拠点として2027年に開館する。
宮崎は、歴史ある風景と新しい開発が共存する浜松町の魅力に触れながら、m〜mを「人がふと立ち寄り、思いを交わせる場所にしたい」と語った。文化芸術を楽しむだけでなく、学びや育成にもつながり、地域にとって親しみやすい“文化の港”を目指すという。
続くトークセッションには、モデレーターを務めたみなと芸術センター プログラムディレクター相馬千秋をはじめ、清家愛港区長、クリエイティブディレクターの箭内道彦、俳優のサヘル・ローズが登壇した。
トークの中心にあったのは、「m〜mを世界に開かれた文化の港にしたい」という視点だ。清家区長は、港区がこれまで文化芸術を「創造性や癒し、希望を育むもの」ととらえ、アート教育やフェスティバルを継続してきた背景を紹介し、その延長線上にある“新しい象徴”としてm〜mを位置づけた。
「多様な文化が交わり、誰もが参加できる“世界に開かれた文化の港”にしたい。再開発が進む浜松町は、人や文化が行き交う“港”そのものです。ここを共生の拠点にしていきたい」
また箭内道彦は、m〜mの名称について、意味を固定せず「自由に解釈できる余白」を重視して選んだと語る。
「m〜mって何だろう?と思っていいし、自分だけの意味を重ねてもいい。その自由さ自体がアート体験なんです」
相馬千秋は、m〜mが目指す“共生”のイメージを「砂浜」に重ねた。
「いつでも開かれていて、好きなときに入って、好きなときに出られる。互いの気配だけがそっと残るような場。m〜mはそんな劇場を目指したい」
サヘル・ローズは、名前の由来であるイラン語の「サヘル(砂浜)」に触れながら、リアルの場で人が集まることの大切さを語った。「砂浜のように、誰でも自由に来られて自分らしくいられる場所になってほしい」と述べ、m〜mへの期待を示した。また、難民キャンプで出会った子どもたちの手紙をもとにしたドキュメンタリー演劇を、将来m〜mで初演したいという考えも明かした。
第2部の「Prologue」では、音楽家の鈴木優人とアーティストの鈴木ヒラクによる即興パフォーマンスが行われた。

鈴木優人は、鍵盤演奏に加えて弦を弾いたり、耳かきのような道具を使ったりと、多様なアプローチで音を生み出した。「ピアノは意外と壊れないから(笑)子供たちに“遊びながら音を探ること”の大切さを伝えたい」と話し、m〜mについては「行政の施設だからこそ、多様な試みを支えられる劇場であってほしい」と述べた。

いっぽう、鈴木ヒラクは、どんぐり、強炭酸水、砂などの素材を用いて紙に線と形を描いた。青い絵具には港の海や宇宙のイメージを、砂にはサヘル・ローズが触れた“砂漠のバラ”への応答を込めたと説明した。パフォーマンス後には、「思い通りにはいかないが、生きている感覚があった。対話から生まれる時間には、そのための“場”が必要で、m〜mはその場になっていくと思う」と語った。

この日は、谷口勝也によるVR作品「バーチャルm〜m」、市原佐都子による演劇ワークショップ、レゴ®ブロックで劇場の未来像をつくるプログラム、浜松町までのウォーキングツアー、出入り自由のネットワーキング・テーブル、「出張!みなとコモンズ」など、多数の企画が同時開催された。



いずれのプログラムも「観る側」と「つくる側」の境界をゆるやかに行き来できる構成となっており、来館者がm〜mの姿を先取りして体験できる内容だった。
m〜mの開館は2027年11月。浜松町駅から便利にアクセスできるシアターやスタジオ、コモンスペースを備えた新しい文化施設は現在建設中だが、この日のプロローグ・イベントでは、その方向性を具体的に知る機会が提供された。今後どのような場として育っていくのか、開館への期待が高まる内容となった。