東京・立川のPLAY! MUSEUMにて、「エルマーのぼうけん」展が開催されている。会期は10月1日まで。
「エルマーのぼうけん」は、どうぶつ島にとらわれた「りゅう」の子を助けに行く、9歳の男の子エルマーの冒険物語シリーズ。アメリカで1948年から51年にかけて、『エルマーのぼうけん』『エルマーとりゅう』『エルマーと16ぴきのりゅう』(文:ルース・スタイルス・ガネット、挿絵:ルース・クリスマン・ガネット)の3冊が出版され、日本では1963年に福音館書店が日本語版を刊行。国内では、累計700万部を超すベストセラーとして広く愛されてきた。
本展は、「エルマーのぼうけん」を読んでいない人ももちろん楽しめるが、物語を知っていると展示構成をより満喫できるものになっている。以下では3部作のストーリーを交えつつ、展示の見どころを紹介していこう。
展示入り口は、シリーズ第1作『エルマーのぼうけん』の「どうぶつ島」を再現したパネルが並ぶ。『エルマーのぼうけん』は、主人公エルマーが拾った「ねこ」からどうぶつ島に「りゅう」が囚われていることを聞き、助けに行くというストーリー。順路の周囲には、どうぶつ島の地図や島内でエルマーが出会う様々な動物たちが描かれたパネルが並ぶ。どれも絵本のなかで登場する挿絵を拡大したもので、エルマーと同じどうぶつ島の冒険者の気分が味わえるだろう。パネルエリアの奥には、エルマーがぼうつきキャンディーで呼び寄せた「わに」たちの、背中でできた橋も。
「エルマーのぼうけん」展(PLAY! MUSEUM)が明日からスタート!主人公エルマーになった気分で冒険を楽しめる本展。鋭意取材中です🐉
— Tokyo Art Beat (@TokyoArtBeat_JP) July 14, 2023
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ストーリーはもちろん、その挿絵が印象深いという読者もきっと多いはず。本展の見どころは貴重な原画の数々。アメリカ・ミネソタ大学図書館のカーラン・コレクションが所蔵する約130点が公開される。絵本としては日本でもポピュラーだが、これまで大規模な展覧会が開催されていなかったために、国内での原画の公開は初めて。
第2部『エルマーとりゅう』は、無事にりゅうのボリスを助けたエルマーが家に帰るまでのおはなし。途中で嵐に巻き込まれたふたりはとある島に流れつき、島中の鳥たちが感染している「しりたがりのびょうき」を治そうと試みる。
会場を進んでいくと、いたるところでジャングルの草木の音や動物の鳴き声が響いていることに気づくだろう。PLAY! は本展にあたってオーディオテクニカとコラボレーション。サウンドデザイナーの染谷和孝を迎え、エルマーの大冒険が音で演出された。第2部のコーナーでは、ボリスとエルマーが嵐のなかをかいくぐる挿絵をもとに、嵐のなかをボリスが懸命に羽ばたくサウンド・インスタレーションが配されている。
シリーズを締めくくる第3部『エルマーと16ぴきのりゅう』は、人間たちによって洞穴に閉じ込められたボリスの家族をエルマーが助け出す物語。原画の展示に加えて、りゅうたちが暮らす「そらいろこうげん」やその周辺の「とんがりさんみゃく」など、地図上の世界が再現されたコーナーもある。
そのコーナーを超えると、15ひきのりゅうたちのパネルが並ぶ。オーネット・コールマンの「Tomorrow Is The Question」がレコードで流れるこのコーナーには、レコードプレイヤーの左右にサンプリングパットが配されており、押すと効果音が流れる。本展の空間構成を担当した、建築家の張替那麻は「ジャズの即興性が、りゅうたちを助け出すシーンと相性がいいと感じた」と語る。りゅうたちは、洞穴の中で助けを待っているというより、むしろ陽気に踊っているようにも見えてくる。
展示を締めくくるのは、著者ルース・スタイルス・ガネットを紐解くコーナーと「ぼうけん図書館」。1923年生まれのガネットは、今年で100歳を迎える。ガネットは22歳のときに「エルマーのぼうけん」を書き始め、1948年に出版。挿絵は、彼女の義母である挿絵画家のルース・クリスマン・ガネットが手がけている。展示では、著者のガネットが幼少期に話や絵を記したノートや自作のオブジェ、彼女の写真などが公開される。
ディレクターの草刈大介は本展にあたって「『冒険』の機会が少なかったり、難しい現代において、エルマーを通して『冒険』を追体験してほしい」と話す。「ぼうけん図書館」はそうした思いをもとに作られたコーナー。各界の著名人が推薦する、冒険に関する書籍がずらりと並ぶ。
Tシャツや靴下、りゅうのぬいぐるみなど、オリジナルグッズも豊富だ。夏休みに親子で訪れることはもちろん、子供の頃に読者だった人や、本展をきっかけに「エルマーのぼうけん」を知った人もぜひ訪れてみてはいかがだろうか。