公開日:2025年6月25日

オラファー・エリアソンの台湾初個展「Your curious journey」開幕。台湾とアイスランド、「島」をつなぐ驚きに満ちた旅の物語

インスタレーション、彫刻、写真、絵画など17点が一堂に会す。会期は9月21日まで。

オラファー・エリアソン Room for one colour 1997 撮影;編集部(諸岡なつき)

台北市立美術館(Taipei Fine Arts Museum、以下TFAM)にて、アイスランド系デンマーク人アーティスト、オラファー・エリアソンの台湾初となる大規模個展「Your curious journey」が6月21日より始まった。本展は9月21日まで開催され、エリアソンの約30年にわたる創作活動を一望できる機会となっている。

オラファー・エリアソン

光、水、自然現象が誘う「旅」の体験

展覧会は、1990年代からのインスタレーション、彫刻、写真、絵画など17点で構成され、鑑賞者の「主観的な参加」を重視している。

ロビーでは、開幕の少し前に天井から吊るされた《Ventilator》(1997)が空気の流れを不規則に可視化しながら揺れ、子どもたちが楽しそうに作品に向かってジャンプしている姿が見られた。展覧会場に入るとすぐ、DNAの螺旋構造を思わせる《Double spiral》(2001)があり、上昇と下降の錯視を引き起こす。

エリアソンは光や水、空気といった自然現象を用いて、私たちの感覚や環境認識を問い直す。暗闇に虹色の光のカーテンが浮かび上がる《Beauty》(1993)、黄色単色光で視界を染め上げる《Room for one colour》(1997)など、見る者の存在そのものが作品の成立に不可欠となるインスタレーションが続く。

オラファー・エリアソン Beauty 1993
《Room for one colour》(1997)の中では鑑賞者である筆者も黄色に染まった

環境と共生するアート作品

展示の根底には、気候変動や自然との共生を巡る問いが流れている。アイスランドのトナカイゴケを用いた《Moss wall》(1994)、風や太陽光を筆代わりにした《Wind writings》(2023)、《Sun Drawing》(2023)は、自然の力を記録する試みだ。また、氷の溶解を段階的に示すブロンズ彫刻《The last seven days of glacial ice》(2024)は、進行する気候危機への静かな警鐘となっている。

オラファー・エリアソン Moss wall 1994
オラファー・エリアソン The last seven days of glacial ice 2024
オラファー・エリアソン Wind writings 2023

エリアソン作品の根底にある「驚き」への考え方

エリアソンは開幕式で作品制作における「不確実性」や「偶然性」の役割についての筆者からの問いかけに対し、次のように述べた。

偶然性について言えば……果たした役割は(ひとつの要素では)あったと思います。それがどれほど大きな要素かはわかりませんが、私は『驚き』というものをとても大切にしています。予期しないことが起きる、ということです。私にはデンマークに"サプライズの教授"と呼ばれている友人がいて、その人は驚きについて研究しています。面白いのは、『どんな驚きが来るかわかってしまったら、それはもう驚きではない』ということです。驚きが来るとわかっていたら、それは驚きではない。つまりこれは不確実性の話でもあります」

「別の友人は『疑うこと』を研究していました。疑うことは古い考えだとか、弱さの証のように言われることもありますが、彼は『疑うことがあって初めて物事を見極められる』と言っていて、私はその考えが好きです。疑うことは一種のスキルだと思います」

「私は最近、『驚かない驚きをどう作れるか』に興味を持ち始めています。もし何か良いアイデアがあればぜひ教えてください。ベルリンのギャラリーneugerriemschneider(ノイグロームシュナイダー)でやった展覧会は『日々の驚き』がテーマでした。見に来た人が、事前に新聞や誰かの話で何かを期待して来場しても、実際に体験することはその期待と違う。それが私の作品で大切にしていることです」

「私は、人が期待を持ってやって来て、でも実際に起こることがその期待と違う、そのズレが生まれる瞬間が好きです。氷を素材にすることもありましたが、氷はいつも驚きがあります。この展覧会には氷は出てきません。でも氷を見たとき、ただの氷だと思っても、触れた瞬間、冷たさに改めて驚かされることがありますよね。知識からではなく、感覚から生まれる驚き。それこそが大事だと思っています。私のスタジオでも、知ることと体験することはまったく別のことだということをよく話します。知識と体験を自分の人生の中で結びつけることができたとき、健康的な意味での成長があると信じています」

オラファー・エリアソン Circumsellar resonator 2018
オラファー・エリアソン Multiple shadow house 2010

対話と参加。多層的なプログラムも展開

TFAM副館長の蔣雨芳(チャン・ユファン)は「本展はアジア太平洋地域の美術館同士の協力における大きな節目であり、台湾と世界をつなぐ架け橋でもあります」と意義を強調した。展覧会オープン初日には、インディペンデントキュレーターの林怡華(エヴァ・リン)をモデレーターに、オラファー・エリアソンと台湾人アーティスト吳瑪悧(ウー・マリ)の公開対談も行われた。

左から林怡華、オラファー・エリアソン、吳瑪悧

会期中は、自然現象の観察や持続可能性をテーマにした多様なワークショップ、家族向けツアーが予定されており、台湾とアイスランドという「島」をつなぐ旅の物語を紡いでいる。

本展はシンガポールアートミュージアム、オークランド美術館 トイ・オ・タマキを経て、台湾に来た。今後インドネシアのミュージアム・マチャン、フィリピンのマニラ現代美術デザイン美術館へと巡回し、アジア太平洋を結ぶ創造の旅を続ける。人と自然、そしてアートの新たな関係を探るこの旅に、ぜひ参加してほしい。

オラファー・エリアソン「Your curious journey」
会場:台北市立美術館
公式ウェブサイト:https://www.tfam.museum/Exhibition/Exhibition_Special.aspx?ddlLang=en-us&id=789
会期:2025年6月21日〜9月21日

諸岡なつき

諸岡なつき

もろおか・なつき 「Tokyo Art Beat」マネージャー