公開日:2025年5月5日

ロン・ミュエック、韓国初の大規模個展開催。国立現代美術館(MMCA)ソウル館で人間存在の本質を問う彫刻たち

巨大な頭蓋骨が100個、天井高く積み上げられた作品《Mass》も展示

ロン・ミュエック Mass 2016–17 ファイバーグラスに合成ポリマー塗料 撮影:編集部(諸岡なつき)

イギリス在住のアーティスト、ロン・ミュエックの韓国初となる大規模個展が、国立現代美術館ソウル館(MMCA)にて4月11日から7月13日まで開催される。本展は、フランスのフォンダシオン・カルティエとの共同企画であり、ミュエックの代表作と最新作が一堂に会する展覧会だ。

Mask II 2002 mixed media 77 × 118 × 85 cm. Private Collection.

驚異的リアリズムで描かれる「内面の人生」

1958年オーストラリア生まれ、現在はイギリスを拠点とするミュエックは、驚くほどリアルな人体彫刻で知られる。ミュエックの彫刻はたんなる写実にとどまらず、孤独、不安、喪失といった現代人の内面世界を緻密に表現してきた。

「作品表面に多くの時間を費やすが、私がとらえたいのはその『内側の人生』だ」と語るミュエックの作品は、鑑賞者を現実と向き合わせ、深い内省を促す。

ロン・ミュエック Woman with Sticks 2009 ミクストメディア Collection Fondation Cartier pour l'art contemporain.

代表作《Mass》が韓国初公開

展示の中心には、2017年に制作されメルボルンのビクトリア国立美術館のコレクションである巨大インスタレーション《Mass》が登場。100個の巨大な人間の頭蓋骨が天井高く積み上げられ、観客に死と記憶、歴史と個人の関係を問いかける。会場ごとに異なる構成で展示されるこの作品は、国立現代美術館(MMCA)ソウル館の建築的特性と文脈を生かして展示された。

ロン・ミュエック Mass 2016–17 ファイバーグラスに合成ポリマー塗料

そのほかにも、観察者の心理を揺さぶる《Young Couple》(2013)や《Woman with Sticks》(2009)、思索的な空間を生む《Man in a Boat》(2002)、一瞬の緊張を捉えた《chicken / man》(2019)など、名作の数々が並ぶ。

極端に拡大・縮小された作品

ミュエックの作品は、実物大ではなく「極端に拡大」または「極端に縮小」されたスケールで制作されることが多く、それによって見る者の感覚に強烈に訴えかける。

《In Bed》はベッドリネンや枕を含めた巨大な彫刻として表現された女性像が、私たちが目の前にいてもまるで透明人間であるかのように横たわる。鑑賞者は彼女の思考を想像しながらじっくりと観察することができる。

ロン・ミュエック In Bed 2005 ミクストメディア Collection Fondation Cartier pour l'art contemporain.

映像と写真で紐解く制作の舞台裏

本展では、写真家・映像作家のゴーティエ・ドブロンドによるミュエックのスタジオドキュメントも展示。25年にわたりミュエックの創作過程を追った貴重な映像作品《Still Life》や《chicken / man》も公開される。

展示風景 撮影:編集部(諸岡なつき)

生と死の意味を見つめ直す機会

国立現代美術館(MMCA)のキム・スンヒ(Kim Sung-Hee)館長は「本展は、1990年代から現在に至るまで一貫して人間の身体と存在を探求してきたミュエックの軌跡をたどるもの。鑑賞者にとって生と死の意味を見つめ直す機会になることを願っています」と語っている。

ロン・ミュエック 展
会期:2025年4月11日(金)~7月13日(日)
会場:国立現代美術館ソウル館(MMCA Seoul)
主催:国立現代美術館(MMCA)、フォンダシオン・カルティエ・プール・ラール・コンタンポラン
キュレーター:ホン・イジ(MMCA)、キアラ・アグラディ(フォンダシオン・カルティエ)、チャーリー・クラーク

諸岡なつき

諸岡なつき

もろおか・なつき 「Tokyo Art Beat」マネージャー
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