公開日:2022年10月4日

【静嘉堂文庫美術館】丸の内に新オープン。曜変天目も出品される「静嘉堂創設130周年・新美術館開館記念展Ⅰ 響きあう名宝―曜変・琳派のかがやき―」レポート

三菱二代社長、岩崎彌之助(1851〜1908)、その息子で四代社長、小彌太(1879〜1945)の親子が集めた美術品を収蔵・展示する静嘉堂文庫美術館が、10月1日より東京・丸の内に移転、開館した。開館記念展「静嘉堂創設130周年・新美術館開館記念展Ⅰ 響きあう名宝―曜変・琳派のかがやき―」は、所蔵する7件の国宝すべてを前・後期に分けて公開する、豪華な展覧会だ。

国宝《曜変天目(稲葉天目)》 南宋時代 12〜13世紀

創設者・岩崎彌之助 念願の地、丸の内で新たなスタート

静嘉堂文庫の設立は1892年(明治25)。静嘉堂とは、そもそもは中国の古典から採った岩崎彌之助の堂号だ。彌之助は、明治維新後の混乱により日本・東洋美術の海外流出を危惧し、古典籍や東洋古美術品の収集を開始。その後、息子の小彌太がコレクションを拡充していった。その結果、国宝7件、重要文化財84件のほか、約20万冊におよぶ古典籍約6500点の東洋古美術品が静嘉堂文庫に集まった。

左──日本光学工業《岩崎小彌太》 昭和10年(1935) 右──新海竹太郎《岩崎弥之助》大正2年(1911)

静嘉堂文庫設立の100周年に当たる1992年、静嘉堂文庫美術館が世田谷区岡本に開館、以来、昨年まで活動を続けてきた(美術品の保管管理・研究閲覧業務などは引き続き世田谷で行われている)。そして、静嘉堂文庫の設立から130周年を飾る今年、東京・丸の内、明治生命館で、展示室面積を1.5倍に増やし、新しい静嘉堂文庫美術館がスタートすることとなった。じつは、彌之助は静嘉堂文庫の設立当初から、三菱が開発した丸の内の地に美術館を作りたいという願望があり、設計図面も制作していたという。その夢は静嘉堂設立130年目にしてようやく叶えられたということになる。

新しい美術館となる明治生命館は1934年竣工、昭和期の建造物としては初めて国の重要文化財に指定された建物。戦後一時期はGHQが接収し、マッカーサーが執務を行っていたことでも知られる。美術館のホワイエは竣工当時の雰囲気を生かしたものだ。

静嘉堂文庫美術館 ホワイエ

国宝7件を出品する、開館記念展

本展はこの新しい美術館のこけらおとしとなるもの。前期・後期にわけて、静嘉堂文庫美術館が所蔵する国宝7件を全部公開する。会期は10月1日~12月18日。

移転開館にあたり、館長の河野元昭館長は、「明治の混乱する世の中で、岩崎弥太郎・小彌太は多くの美術品を集めた。これらの美術品をよりいっそう多くの方々に見ていただき、『静嘉堂文庫@丸の内』の愛称で親しんでもらいたい」と語り、新天地での意気込みを見せた。

静嘉堂文庫美術館 展示室風景

静嘉堂文庫のコレクションは、親子二代の集め方にそれぞれ特長があることが知られている。彌之助は刀剣や茶道具、絵画など幅広く収集したのに対し、小彌太は中国陶磁を系統立てて集めることに心を配っていた。

第1章「静嘉堂コレクションの嚆矢―岩﨑彌之助の名宝蒐集」では、彌之助が収集した至宝に焦点を当てる。

茶道具のなかでもとりわけ人気が高く、近年ではマンガ『へうげもの』にも登場した《唐物茄子茶入 付藻茄子》は、戦国武将の松永久秀が信長に献上したとされるもの。彌之助はこの《付藻茄子》と、同展に展示されている《松本茄子》とともに、歳末の給与を前借りして購入したという。

大名物 唐物茄子茶入《付藻茄子》 南宋〜元時代 13〜14世紀

国宝《倭漢朗詠抄 太田切》も、明治時代に矢之助が入手したと考えられているもの。唐紙の装飾に、軽やかで大胆な仮名と行書体で記された対象的に配されている。

国宝《倭漢朗詠抄 太田切》 平安時代(11世紀)

国宝《倭漢朗詠抄 太田切》 平安時代(11世紀)の一部

第2章「中国文化の粋」では、書画や工芸などの中国美術を展示する。因陀羅筆・楚石梵琦題詩による国宝《禅機図断簡 智常禅師図》、(元時代 14世紀)や、重要文化財《建窯 油滴天目》などを展示するほか、伝夏珪《山水図》、国宝 馬遠《風雨山水図》(南宋時代 13世紀)、重要文化財 牧谿《羅漢図》と、日本の絵師たちに多大な影響を与えた中国の画家による3幅が並ぶなど、落ち着いていながらも豪華な空間が構成されている。

因陀羅筆・楚石梵琦題詩 国宝《禅機図断簡 智常禅師図》 元時代 14世紀

重要文化財 建窯《油滴天目》 南宋時代 12〜13世紀
左──重要文化財 牧谿《羅漢図》 南宋時代 13世紀 中──伝夏珪《山水図》 南宋〜元時代 13〜14世紀 右──国宝 馬遠《風雨山水図》 南宋時代 13世紀

美術館のなかで最も広い展示室、ギャラリー3に足を踏み入れると、即座に国宝 俵屋宗達《源氏物語関屋・澪標図屏風》が目に飛び込んでる。第3章「金銀かがやく琳派の美」では、江戸時代から明治時代までの幅広く琳派の作品を紹介していく。

国宝 俵屋宗達《源氏物語関屋・澪標図屏風》 寛永8年(1631)

《源氏物語関屋・澪標図屏風》は、国宝に指定されている俵屋宗達の作品3のうちの1(残り2点は建仁寺蔵の《風神雷神図》、京都国立博物館蔵《蓮池水禽図》)で、右隻は源氏物語第十四帖「澪標」を、左隻が第十六帖「関屋」を題材としたものだ。直線と曲線を大胆に使った画面構成のみならず。金・白・緑を基調とした宗達の色づかいが美しい。

そのほかにも、本阿弥光悦、尾形光琳、尾形乾山、鈴木其一、酒井抱一らが手掛けた名品が並ぶ。

左──鈴木其一《雨中桜花楓葉図》 江戸時代 19世紀 中──重要文化財 酒井抱一《麦穂菜花図》 江戸時代 19世紀 右──重要文化財 尾形光琳 《鵜舟図》 江戸時代 18世紀

第4章「国宝『曜変天目』を伝えゆく―岩﨑小彌太の審美眼」では、静嘉堂文庫美術館のシンボルのひとつ、国宝《曜変天目》が展示される。現在のところ世界に3つしか確認されていないという曜変天目茶碗は、見る角度により青い輝きが虹のように変化するのが特徴だ。

国宝《曜変天目(稲葉天目)》 南宋時代 12〜13世紀
曜変天目茶碗展示ケース

この曜変天目茶碗のために、美術館では専用のケースを制作。ケース上部には非常に細い穴が開けられ、茶碗の内部が輝き、茶碗に余計な影ができないように絶妙な調整がほどこされた照明がセッティングされている。展示ケースのガラスは2枚重ねであるがものの、反射を極力抑えられており、映り込みを気にせず、作品鑑賞に没頭できるようになっている。

また、国宝 手掻包永《太刀 銘 包永 附:菊桐紋糸巻太刀拵》も曜変天目の近くで美しく輝いている。刀剣を扱う美術館は全国各地に多くあるが、多くが第二次世界大戦後から収集を開始している。それに対し、静嘉堂文庫に関しては明治からの収集ゆえに、質量ともに充実している。特に平安末期から鎌倉時代にかけてのコレクションは屈指のものだ。

国宝 手掻包永《太刀 銘 包永 附:菊桐紋糸巻太刀拵》 鎌倉時代 13世紀、拵:江戸時代 18〜19世紀

そして、静嘉堂文庫美術館はミュージアムグッズも刷新。すでにSNSで話題になっているほぼ実寸台の曜変天目ぬいぐるみのほか、クッションカバーやガーゼハンカチ、Tシャツなど曜変天目茶碗をモチーフにしたグッズを多数取り揃えている。ミュージアムショップはチケットがなくても入店可能なのもうれしい。

曜変天目ぬいぐるみ 5800円

クッションカバー 3700円

今後、静嘉堂文庫美術館は今まで以上に精力的に活動をしていくという。東京駅から徒歩数分という限りなく恵まれた立地の美術館ゆえ、遠方からでも非常に訪問がしやすくなった静嘉堂文庫美術館を、ぜひ訪れて見よう。

浦島茂世

浦島茂世

うらしま・もよ 美術ライター。著書に『東京のちいさな美術館めぐり』『京都のちいさな美術館めぐり プレミアム』『企画展だけじゃもったいない 日本の美術館めぐり』(ともにG.B.)、『猫と藤田嗣治』(猫と藤田嗣治)など。