第60回ヴェネチア・ビエンナーレが4月20日に開幕し、同日午前に各受賞者が発表された。
ナショナル・パビリオンにおいてもアドリアーノ・ペドロサ(サンパウロ美術館アーティスティック・ディレクター)がキュレーションした国際展(メイン展示)においても、先住民族としてのルーツを作品テーマに組み込んだアーティストが金獅子賞を受賞するという結果となった。
まず87ヶ国が参加した国別参加方式のナショナル・パビリオンでは、アーチー・ムーア(Archie Moore)の個展を開催したオーストラリア館が金獅子賞を受賞した。同国の金獅子賞受賞は今回が初。
クイーンズランド州レッドランズを拠点に活動するアーチー・ムーアは、先住民族のカミラロイ族とビガンブル族にルーツを持つアーティスト。同国の代表に先住民族のルーツを持つアーティストが選出されるのは2017年のトレーシー・モファット以来2人目となる。
今回ムーアは、インスタレーション作品《kith and kin》を発表。パビリオンの壁と天井に、6万5千年にわたる作家の家族の系図をチョークで刻んだ。
特別表彰はドルンティナ・カストラティ(Doruntina Kastrati)が展示を行ったコソボ共和国が受賞した。
また、アルセナーレとジャルディーニを会場に行われる国際展は、今回「Stranieri Ovunque / Foreigners Everywhere(どこにでもいる外国人)」のテーマのもと、アドリアーノ・ペドロサがキュレーションを務める。移民、難民、亡命者、先住民、クィアといったアイデンティティや背景を持つアーティストを中心に、332組が展示を行った。
本展では作家ごとに賞が与えられる。金獅子賞を受賞したのはニュージーランドに拠点を置き、マオリ族の女性アーティストによって結成されたマタオ・コレクティヴ。アルセナーレ会場の冒頭の展示室を舞台に、マオリ族の伝統的な織物を再解釈し、宇宙的かつ避難所を思わせる空間を作り上げた。
ヴェネチア・ビエンナーレ、金獅子賞が発表🏆
— Tokyo Art Beat (@TokyoArtBeat_JP) April 20, 2024
アドリアーノ・ペドロサがキュレーションした「Foreigners Everywhere(どこにでもいる外国人)」の金獅子賞はMataaho Collectiveが受賞。
織物による宇宙的で避難所のような空間を生み出しました。 pic.twitter.com/63ioktSHlR
また有望な若手作家に贈られる銀獅子賞はイギリス生まれのナイジェリア人アーティスト、カリマ・アシャドゥ(Karimah Ashadu)が受賞。
特別賞としてエルサレム・パレスチナ出身ニューヨーク在住のサミア・ハラビー(Samia Halaby)、アルゼンチン出身のラ・チョーラ・ポブレーテ(La Chola Poblete)が受賞した。
生涯功労賞は、イタリア生まれのブラジル人アーティスト、アンナ・マリア・マイオリーノ(Anna Maria Maiolino)と、トルコ出身パリ在住のアーティスト、ニル・ヤルテル(Nil Yalter)が受賞した。
今回のヴェネチア・ビエンナーレは「どこにでもいる外国人」というテーマが発表されたときから、西洋の白人男性中心主義的なアート界の権力構造を脱し、移民やディアスポラ、先住民やクィアのアーティストに焦点が当たることが予想されていたが、金獅子賞をともにオセアニアの先住民族ルーツのアーティストが受賞したことで、近年のアート界における先住民族アーティストへの注目の高まりを決定づけたと言えるだろう。2022年に開催された前回は、ブラックの女性アーティスト、ソニア・ボイス(イギリス)とシモーヌ・リー(アメリカ)が金獅子賞を受賞し、国際展「The Milk of Dreams(夢のミルク)」では女性+ジェンダー・ノンコンフォーミングの作家が90%を占めるという“ブラック”と“女性”のビエンナーレだったが、今回は“先住民族”が象徴的な位置を占めるビエンナーレとなった。
また、特別表彰をコソボ館が受賞したが、今回はアフリカからの参加が史上もっとも多いビエンナーレでもある。ナショナル・パビリオンの参加は2017年と2019年は7ヶ国、2022年は9ヶ国、そして今年は11ヶ国に増加した。
Tokyo Art Beatでは後日ヴェネチア・ビエンナーレのレポートを公開予定。こちらもお楽しみに。
福島夏子(編集部)
福島夏子(編集部)