公開日:2025年5月30日

国際芸術祭「あいち2025」の全容が発表。世界各地から61組が参加、パフォーミングアーツ9演目も明らかに

会期は9月13日〜11月30日。芸術監督フール・アル・カシミらが登壇した記者会見の模様をレポート

ムルヤナ Sea Remember 2018 Collection of Paulus Ong.

世界22の国と地域から61組のアーティストおよびグループが参加

9月13日〜11月30日に開催される国際芸術祭「あいち2025」。本日5月30日に記者会見が行われ、そのプログラム全容が発表された。

2010年から3年ごとに開催されていた「あいちトリエンナーレ」。前回から名称を変え、今回で6回目の開催となる。会場は、愛知芸術文化センター愛知県陶磁美術館、瀬戸市のまちなか。すでに発表されていた芸術祭のテーマは「灰と薔薇のあいまに」で、芸術監督を昨年『ArtReview』の「Power 100」で1位に選出されたフール・アル・カシミが務める。

「あいち2025」キービジュアル © 五十嵐大介

「あいち2025」では、世界22の国と地域から61組のアーティストおよびグループが参加。国内からは26組が名を連ねる。現代美術では、54組が新作を含む作品を展示し、パフォーミングアーツでは愛知芸術文化センターを中心に、先鋭的な演劇、ダンスなどの9演目を上演予定だ。

記者会見では、現代美術展の各アーティストの展示場所や、パフォーミングアーツプログラムの演目、ラーニングプログラムの概要などが発表された。会見には、大林剛郎(国際芸術祭「あいち」組織委員会会長)、フール・アル・カシミ(芸術監督)、飯田志保子(学芸統括)、入澤聖明(キュレーター[現代美術])、中村茜(キュレーター[パフォーミングアーツ])、辻琢磨(キュレーター[ラーニング])、趙純恵(キュレトリアルアドバイザー[現代美術])が登壇した。

メイン会場、愛知芸術文化センターで展示を行うアーティストは?

現代美術展ではすでに発表されていたアーティストたちの展示場所が明らかに。メイン会場となる愛知芸術文化センターでは、以下の作家たちが展示を行う。

久保寛子、札本彩子、ムルヤナ、杉本博司、太田三郎、水谷清、宮本三郎、ウェンディー・ヒュバート、大小島真木、アフラ・アル・ダヘリ、諸星大二郎、山本作兵衛、川辺ナホ、ダラ・ナセル、バーシム・アル・シャーケル、ハラーイル・サルキシアン、小川待子、シルビア・リバス、プリヤギータ・ディア、浅野友理子、カマラ・イブラヒム・イシャグ、ロバート・ザオ・レンフイ、クリストドゥロス・パナヨトゥ、マユンキキ、ムハンマド・カゼム、イキバウィクルル、バゼル・アッバス&ルアン・アブ=ラーメ、ソロモン・イノス、是恒さくら、ジョン・アコムフラ、ミルナ・バーミア

毛糸や布を用いて構造物を制作するインドネシアのアーティスト・ムルヤナは、展示室の入り口に大きなインスタレーションを発表予定。またレバノンの生まれのダラ・ナセルも非常に大型作品を展示するという。ネイティブ・ハワイアンの画家ソロモン・イノスは、地元の子供たちとともに新たな壁画を制作する。

ダラ・ナセル Adonis River 2023 Commissioned by the Renaissance Society, University of Chicago, with support from the Graham Foundation and Maria Sukkar; courtesy of the artist
ソロモン・イノス MMMRRRZZZMMM 2019

愛知県陶磁美術館では焼き物のまちという立地もインスピレーション源に

焼き物のまちとして知られる瀬戸市にある愛知県陶磁美術館では、本館のみならず敷地内各所を活用して展示を行う。展示作家は以下の通り。

エレナ・ダミアーニ、ワンゲシ・ムトゥ、マリリン・ボロル・ボール、ヤスミン・スミス、西條茜、シモーヌ・リー、シモーヌ・ファタル、チャヌーパ・ハンスカ・ルガー、永沢碧衣、Barrack(古畑大気+近藤佳那子)、ハイブ・アース、加藤泉、大小島真木

芸術監督アル・カシミは、美術館のコレクションや立地そのものが作品制作に影響を与えたと語った。陶を作品に用いるアーティストとして、ジャマイカ系アメリカ人アーティストのシモーヌ・リーの名を挙げ、「作家の宝貝を使った作品とそれがアフリカ人やアフリカン・ディアスポラにとって持つ意味に特に関心がある」と述べた。ケニアとアメリカを拠点に、陶や映像を用いた作品を制作しているワンゲシ・ムトゥの大型作品は、美術館のエントランスで来場者を出迎える。

また、瀬戸市内でカフェとギャラリースペースを運営するBarrackは、レストランでもプロジェクトを展開する。

シモーヌ・リー Untitled 2023-24 © Simone Leigh, courtesy the artist and Matthew Marks Gallery
ワンゲシ・ムトゥ Sleeping Serpent 2014 Courtesy of the Artist and Victoria Miro London

さらにガーナとイギリスを拠点に、版築など環境に負荷をかけない素材を用いて建築物を制作するコレクティブ、ハイブ・アースは、ラーニングプログラムとコラボレーションする。

ハイブ・アース Eta’Dan Wall for Sharjah Archietecture Triennal 2023 Photo: Sharjah Architectural Triennial

瀬戸のまちなかでは、旧銭湯や小学校も展示空間に

瀬戸市のまちなかでは、瀬戸市美術館瀬戸市新世紀工芸館をはじめ、市内の各所でアーティストたちが展示を行う。参加作家は以下の通り。

佐々木類、ミネルバ・クエバス、シェイハ・アル・マズロー、セルマ&ソフィアン・ウィスィ、メイサ・アブダラ、panpanya、冨安由真、アドリアン・ビシャル・ロハス、ロバート・アンドリュー、沖潤子、マイケル・ラコウィッツ、マユンキキ+

ガラスを用いて記憶と存在の本質を探求する作品で知られる佐々木類は、かつての銭湯「旧日本鉱泉」で、地域や銭湯の歴史へのリサーチに基づく没入的な新作インスタレーションを展示。

佐々木類 植物の記憶:Subtle Intimacy(2012-2022)  2022 Photo: Yasushi Ichikawa

瀬戸市美術館で展示を行うメキシコ出身のミネルバ・クエバスは、瀬戸にゆかりのある北川民次の作品に着目しつつ制作した壁画を発表するという。

瀬戸市新世紀工芸館では、セルマ&ソフィアン・ウィスィメイサ・アブダラが展示。パフォーマンスプログラムにも参加するセルマ&ソフィアン・ウィスィは、チュニジア・チュニス出身の振付家、ダンサー、キュレーターで、チュニスの村で女性の手のみによって作られてきた伝統的な陶の人形にまつわる作品を発表する。

セルマ&ソフィアン・ウィスィ L’Art Rue Ceramic Dolls Collection, Created by Laaroussa Artistic Collective for Community Spaces 2011-2013 Photo: © Yosr Ayadi

旧瀬戸市立深川小学校では、アドリアン・ビシャル・ロハスが、教育や学校にまつわる歴史をひもとく作品を、粘土の採掘を行う株式会社加仙鉱山では、西オーストラリアのヤウル族を先祖に持つロバート・アンドリューが作品を展示する。無風庵では、沖潤子が刺繍を用いて、母との記憶や戦争にまつわるテーマを盛り込んだ作品を展開。また、マイケル・ラコウィッツは梅村商店を舞台にインスタレーションだけでなく、人々を迎え入れるようなプロジェクトも行うという。panpanyaは瀬戸についての漫画を発表する予定だ。

アドリアン・ビシャル・ロハス Mi familia muerta(My Dead Family) 2009 Photo by Carla Barbero

パフォーミングアーツは世界初演・日本初演の作品が多数

パフォーミングアーツは国内から4作品、中東、アフリカ、オセアニア、アジアから5作品の計9作品が上演される。ラインアップは以下の通り。

ブラック・グレース:『Paradise Rumour』
バゼル・アッバス&ルアン・アブ=ラーメ『(タイトル未定)』
態変:『BRAIN』
マユンキキ+:『クㇱテ』
セルマ&ソフィアン・ウィスィ:『Bird』
オル太:『Eternal Labor』
AKNプロジェクト:喜劇『人類館』
フォスタン・リニエクラ:『My body, my archive』
クォン・ビョンジュン:『ゆっくり話して、そうすれば歌になるよ』

キュレーターの中村茜は、プログラムの柱として「人間と自然の関係」「歴史や記憶の中にある戦争と現在進行形の戦争」「支配をめぐる世界的な権力構造」という3つの観点を挙げた。多くの作品が世界初演または日本初演となる。

オープニングを飾るのは、サモアルーツのニール・イェレミアが代表を務めるブラック・グレース。南太平洋地域に投影された「パラダイス」という幻想を問う『Paradise Rumour』を日本初演する。

ブラック・グレース『Paradise Rumour』  2023 Photo: Toaki Okano

障がいのある身体のあり方の探求を続ける態変は、時里充をコラボレーターに迎え、AIが生活に浸透する現在の社会状況やその価値観を問い直す新作を発表。マユンキキ+の新作は、昭和初期に奥三河の三信鉄道の開通に大きな貢献をした測量士であり旭川アイヌのリーダーである川村カ子トの軌跡をたどる。

オル太は日本列島から朝鮮半島までのリサーチを踏まえ、近現代の「女性と労働」をテーマにした新作を展示と公演として発表。前述のセルマ&ソフィアン・ウィスィは、動物との対話や「ともに生きること」を問い直してきた代表作のひとつ『Bird』を上演し、名古屋の鳩と共演するという。

オル太 © OLTA

AKNプロジェクトは、沖縄を巡る歴史を鋭く風刺し、1976年から上演されてきた『人類館』を喜劇として新たなアプローチでリクリエーション。コンゴ民主共和国出身のフォスタン・リニエクラは、征服者によって築かれた記録に抵抗し、身体に刻まれた記憶を呼び覚ます代表作『My body, my archive』を日本初演する。愛知県陶磁美術館の芝生広場で披露されるクォン・ビョンジュンの新作は、瀬戸のまちや人々の音を採取して制作した野外彫刻作品だ。

フォスタン・リニエクラ『My body, my archive』  2023 Photo: Sarah Imsand

さらに今回は、Live & Lounge VioとCLUB MAGOにパレスチナのアーティストを招聘してナイトクラブイベントとして行うプログラムも。バゼル・アッバス&ルアン・アブ=ラーメが、今年パレスチナで撮影した映像と当地から招聘するミュージシャンたちによるパフォーマティブ・インスタレーションを発表する。

バゼル・アッバス&ルアン・アブ゠ラーメ © The Museum of Modern Art, New York. Photo: Julieta Cervantes

会期中は毎週末公演やパフォーマンスが行われるほか、視覚障害、聴覚障害のある人への情報保障や、鑑賞のハードルを下げたリラックス・パフォーマンスなど、観客のアクセシビリティにも力を入れる。

「誰もが安心して楽しめる環境づくり」を目指すラーニングプログム

ラーニングプログラムは、「誰もが安心して楽しめる環境づくり」を目指し、幅広い層を対象とした様々なプログラムを展開。愛知芸術文化センター内と瀬戸市内に拠点を設ける。

企画・運営は、キュレーターを務める建築家の辻琢磨を中心に、村上慧(アーティスト)、野田智子(アートマネージャー)、黑田菜月(写真家)、浅野翔(デザインリサーチャー)と専門領域の異なる5人のチームによって行われている。

ボランティアプログラムや、県内の小中学校と協働する学校向けプログラム、障害のある人や親子など様々な人を対象にツアーや鑑賞サポートを行うアクセシビリティプログラム、「ラーニング」そのものについて学ぶ参加型のプログラム「ラーニング・ラーニング」などが展開。さらにハイブ・アースと協働し、版築と土をテーマにした構築物を愛知県陶磁美術館内に設置する「凸と凹」を通して、参加者が瀬戸の土に直接触れられる機会を提供する。

芸術監督・アル・カシミの想い──「より多くの人や声と出会う芸術祭に」

会見にて芸術監督のアル・カシミは「私の願いは、芸術祭に新しい来場者を迎えること。トリエンナーレを知らない多くの人々が訪れてくれたら素晴らしいと思います。クラブや人々が普段ビジュアルアートに触れることのない他の場所でも展開しているのはそのためです。より多くの観客と新しい声、そして新しい来場者を芸術祭に呼び込みたいと思っています」と抱負を述べた。

フール・アル・カシミ © SEBASTIAN BÖTTCHER

また「灰と薔薇のあいまに」というテーマを踏まえ、現在でも世界で戦争や紛争が続くなか、本展でどのようなメッセージを伝えたいかという問いには次のように答えた。

「おっしゃる通り、世界で長いあいだ戦争が続いています。アーティストと現代美術の役割は、こうした状況を可視化することだと思いますが、同時に人々を結びつけることでもあると思います。本展が開幕する頃には、灰ではなく、もっと薔薇が咲いていることを願っています。

展覧会や現代美術が人々を結びつけ、連帯し、希望を持ち、そして結局のところ私たちは皆同じなのだということを理解するということ。人間である誰もが同じものを求めています。平和と安全、そして平穏に暮らすことです。だからもしアートが私たちに何かを教えてくれるとすれば、それは人間性についてです。この展覧会がそうしたことの一部を実現してくれることを期待しています」

9月13日から79日間にわたって行われる「あいち2025」。「灰と薔薇のあいまに」というテーマのもと、世界各地から集うアーティストたちがどのような表現を展開するのか。その開幕を心待ちにしたい。

後藤美波

後藤美波

「Tokyo Art Beat」編集部所属。ライター・編集者。