「諏訪敦|きみはうつくしい」ヴィジュアル
画家・諏訪敦の個展「諏訪敦|きみはうつくしい」が、9月11日から東京・天王洲のWHAT MUSEUMで開催される。会期は2026年3月1日まで。
現代日本の絵画におけるリアリズムを牽引する画家である諏訪敦。徹底した取材をもとに、卓越した描画技術で対象に肉薄する作品を手がけており、近年は戦争で亡くなった人々や、神話や古典文学の登場人物といった不可視の存在を描くリサーチプロジェクト型の絵画制作にも取り組んでいる。
諏訪にとって約3年ぶりの大規模個展となる本展では、ヌードと頭蓋骨を組み合わせた初期作品や、亡き人々を遺族からの依頼で描いた肖像画、諏訪自身の家族を見つめたシリーズなど、代表作から最新作まで約80点を展示。うち約30点は、本展のために制作された静物画など初公開作品となる。展示構成は宮本武典が手がけ、最新の大型絵画《汀にて》を中心に、そこに至るまでの画業の変遷を多角的に紹介する。
《汀にて》は、新型コロナウイルスの感染拡大により、対面でモデルを使った制作をできなくなった作家が、家族を介護しながら自宅アトリエで進めた静物画研究の集大成的作品。コロナ禍以降、「人間を描きたいという気持ちを徐々に失っていった」という諏訪が、古い骨格標本、プラスター、外壁充填材といったアトリエにある材料でブリコラージュした人型を描いた絵画だ。
会場では、同作のモチーフになった人型や制作途中を記録した素描もあわせて展示されるほか、その制作の様子に密着したドキュメンタリー映像の上映も行う。
さらに、作家の藤野可織が静物画の制作に没頭する諏訪のアトリエをたびたび訪れ、その絵の印象をもとに書き下ろした掌編小説『さよなら』を来場者に配布するという、絵画と文芸のコラボレーションも実現。これは、諏訪が「ゾンビ化した絵画様式」と語る、古典技法を駆使した写実的な絵画表現から、現代を舞台にした新たな物語を⽣み出す試みとなる。
本展は、稀代の肖像画家が再び人間を描けるようになるまでの過程を開示するドキュメンタリーでもあるという。諏訪の思索と創造をたどる貴重な機会となりそうだ。