公開日:2025年7月23日

舞台芸術祭「秋の隕⽯2025東京」が10〜11月開催。チェルフィッチュ主宰の岡田利規がアーティスティック・ディレクターを務め、誰もがウェルカムな画期的な舞台芸術祭を目指す

池袋・東京芸術劇場を中心に10月1日〜11月3日に開催。上演作品には岡田利規の最新作や、市川沙央、ダ・ヴィンチ・恐山、手塚夏子らが参加する野外パフォーマンス、日本初演となるダミアン・ジャレ×名和晃平作品など

記者会見にて 前列左から、花形槙、岡田利規(演劇作家、小説家、演劇カンパニー「チェルフィッチュ」主宰)、菊川朝子(うたうははごころ代表)、後列左から、山口遥子、関田育子([関田育子]主宰)、タニノクロウ(庭劇団ペニノ主宰、座付き劇作・演出家)、葛西敏彦(ユーバランス ディレクター)

「秋の隕⽯2025東京」全ラインアップが公開

舞台芸術祭「秋の隕⽯2025東京」が10月1日〜11月3日まで池袋・東京芸術劇場を中心に開催される。

「秋の隕⽯2025東京」は、「新たな芸術の創造」「海外発信」「人材育成」をミッションとし、国内外の舞台芸術作品の上演のほか、世界で活躍出来る人材育成を行う芸術祭。アーティスティック・ディレクターは国内外で活躍する劇作家/チェルフィッチュ主宰の岡⽥利規が務める。

本年度のタイトル「隕石」について、岡田は次のようなメッセージを公開している。

「ここでいう『隕石』とは、比喩です。ここにないなにか。慣れ親しみのあるものとは大いに異なるなにか。そうしたものたちがここにやってきて、ここにいるわたしたちと遭遇する。あたらしい形式や思考の枠組みにふれ、いつもと違う仕方で感性や脳が刺激される。そのような〈事件〉となるものでありたいという野心を、わたしおよびチームはこの名称、舞台芸術祭『秋の隕石』に託しました」

「秋の隕⽯2025東京」キーヴィジュアル

会期中は「隕石」としての上演作品群や、観客とのコラボレーション、充実したアクセシビリティを通じて、私たちと現実との関係、あるいは上演芸術のあり方そのものを問い直すような試みが行われる。

同芸術祭は国内・海外の多様なアーティストらによる「上演プログラム」 、レクチャーやワークショップなどの「上演じゃないプログラム」 、その両方を支える「ウェルカム体制(=来場サポートのこと)」の3つから構成される。

7月23日に開催された記者会見で岡田は、「ウェルカム体制ではアクセシビリティなどを想定しており、それを充実させる。これまで舞台公演に来られなかった人、自分には無理だと思っていた人にも、芸術祭を構成する参加者になってもらえるようにしたい」とその意図を語った。

岡田利規 Photo: Ryohei Tomita

オープニングプログラム:市川沙央、ダ・ヴィンチ・恐山、手塚夏子によるインストラクション

まずは「上演プログラム」 から紹介したい。

オープニングプログラム『現実の別の姿/別の現実の姿』は、岡田がコンセプトを手がける野外パフォーマンス作品。『ハンチバック』で芥川賞を受賞した小説家の市川沙央、ライターでYouTuberのダ・ヴィンチ・恐山(品田遊)、振付家の手塚夏子が手がけた3つのインストラクション(指示)をもとに、パフォーマーたちが池袋の劇場前広場でパフォーマンスを行う。音楽を担当するのはDJ/プロデューサーokadadaだ。

オープニングプログラム『現実の別の姿/別の現実の姿』 Photo by Satoshi Nishizawa

岡田利規の最新作はダンス作品兼演劇作品

ダンス作品兼演劇作品『ダンスの審査員のダンス』は岡田利規の最新作。哲学者・鷲田清一の、所有の概念をめぐる論考『所有論』(2024)を創造源としている。上演中はリラックス・パフォーマンス(小さな子供や、発達障害の方、音や光の刺激に敏感な方、静かに大人しく座っていることを強制されるような空気が苦手な方などにも安心して観劇を楽しんでもらえる上演手法のこと)が全面的に導入され、同芸術祭を構成する要素のひとつ「ウェルカム体制」を体現する。

『ダンスの審査員のダンス』 Photo: Yusei Fukuyama

「リハーサルが始まったが、出演者の多くがダンサーで、多くの方にとってテキストをしゃべることは挑戦。新たにテキストを話すこと、体を動かすことの追求と試行錯誤をやっている。それは自分がこれまでやってきたことではあるが、決定的に質感の違うことを始めようとしているという手応えがある」(岡田)

「上演プログラム」:注目作が目白押し

芸劇オータムセレクション 佐々木蔵之介ひとり芝居『ヨナ -Jonah』は、東京芸術劇場×ルーマニア・ラドゥ・スタンカ劇場による国際共同製作。佐々木が孤独な暗闇を突き破り自由を求める男を演じる。

『ヨナ -Jonah』

英国シェフィールドを拠点とする老舗カンパニー、フォースド・エンタテインメントが紹介するのは、6人のパフォーマーがAIの声に合わせてリップシンクしながら熱演を繰り広げる演劇作品『Signal to Noise』。身体を持たない声に合わせて行われるパフォーマンスは、「何がリアルなのか」「何が人間なのか」を問い直す。

『Signal to Noise』 © Hugo Glendinning

Shakespeare’s Wild Sisters Group×庭劇団ペニノ『誠實浴池 せいじつよくじょう』は、川端康成の小説『眠れる美女』を下敷きにした日台共同戯曲・演出作品。庭劇団ペニノを主宰するタニノクロウと、台湾のShakespeare's Wild Sisters Groupの団長の王嘉明(ワン・チャミン)という各国の異彩同士のコラボレーションによって展開される、「戦死した男たちのためのSMクラブ」(タニノ)を舞台にした大人のおとぎ話だ。

『誠實浴池 せいじつよくじょう』 © Hsuan-Lang LIN, provided by National Theater & Concert Hall

ニューヨークとロサンゼルスを拠点に活動するフェイ・ドリスコルは、2023年にニューヨークで初演、絶賛された『Weathering』を上演。舞台上で絵画を再現する活人画の手法を参照した同作品では、変転し風化するこの世界を五感を通じて体感することとなる。

『Weathering』 © Tiffany Bessire, OZ Arts, 2025

そのほか上演作品には、サウンドエンジニアである葛西敏彦がディレクションする音楽イベント「ユーバランス」、「広⾓レンズの演劇」を標榜する演劇団体[関田育子]の新作『under take』、母となった女優たちが結成したうたうははごころによる“ママさんコーラス演劇”、メディアアートや現代美術の領域でも活動する花形槙による“公開実験”パフォーマンス、日本初演となるダミアン・ジャレ×名和晃平作品『Planet[wanderer]』、実験演劇の巨匠ロバート・ウィルソン演出のひとり芝居『Mary Said What She Said』など計14演目がラインアップ。

世界的に盛況「オブジェクトシアター」とは?

本芸術祭では、舞台芸術の世界で近年注目を集めているオブジェクトシアターの最前線に触れることができることにも注目したい。オブジェクトシアターとは、日用品や抽象的なオブジェを用いる現代的な人形劇だ。

「上演プログラム」としてはシャヴィエ・ボベス『やがて忘れてしまうもの』ハンダ・ゴテ・リサーチ&ディベロップメント『第三の手』、「上演じゃないプログラム」としてはアリエル・ドロンによるワークショップが予定されている。

『第三の手』 © Martin Špelda

オブジェクトシアターや人形劇に関する研究・企画を行っており、一部プログラムのキュレーションを担当する山口遥子は、記者会見でオブジェクトシアターの興隆と今回のプログラムについて以下のように説明した。

「オブジェクトシアターとはものが主役になる演劇。ものを通して人間を語る場合もあれば、宇宙や、すでに亡くなってしまった存在などについて語ることもある。なぜオブジェクトシアターが現在世界的に注目を集めているかというと、戦争や環境破壊に満ちた世界を、人間中心主義的な視線から脱していかに見ることができるかという、ポストヒューマン的な思想と重なる部分がある。日本では伝統的に人形浄瑠璃があり、現代でもぬいぐるみの文化などがあることから、日本の舞台演劇界においても馴染み深い部分があるのではないかと考えている。オブジェクトシアターと一口に言っても一枚岩ではなく、その作品は非常に多様。今回招聘された3作家のラインアップでは、世界におけるオブジェクトシアターのもっとも面白い部分を、多様性含めて見ることができる」

山口遥子は「上演じゃないプログラム」のなかで、レクチャー「現代オブジェクトシアターへのクイックガイド」も実施するので、こちらに参加することでオブジェクトシアターへの新たな知見を得ることができそうだ。

「上演じゃないプログラム」:ワークショップやレクチャーなど

「上演じゃないプログラム」としてはほかにも、シビック・クリエイティブ・ベース東京 [CCBT]と共同で行われる短期集中ワークショップの「Super Sober Shamanism:同期・共在・模倣を演劇とテクノロジーの両岸から考える」や、世界各地から舞台芸術に関わる若手を招聘する「次はどこ?みて、はなすレジデンシー」といった「上演じゃないプログラム」などがラインアップされている。

「Super Sober Shamanism:同期・共在・模倣を演劇とテクノロジーの両岸から考える」

「ウェルカム体制」:子供も障害者も安心して楽しめる舞台芸術への取り組み

「ウェルカム体制」として、東京芸術劇場前広場に「ウェルカムぎんが」が誕生。ふらっと立ち寄り当日券情報などを入手できる案内所であり、飲食が楽しめる休憩所でもあるこの広場は、ベンチやテーブルがフレキシブルに組み替えられ、ベビーカー連れなど様々な人がストレスなく過ごせる場所になるという。

「ウェルカムぎんが」イメージ

本芸術祭が力を入れる「ウェルカム体制」では、アクセシビリティ・鑑賞サポートなども充実。託児サービスや託児型ワークショップなども予定されている。

また「リラックス・パフォーマンス」という上演方法では、音響や照明の効果を柔らかいものにすることで、小さい子供や、静かに大人しく座っていることを強制されるような空気が苦手な人も安心して楽しめる環境を作るという。

障害者や子供、親子連れにも気軽に舞台芸術を楽しんでもらいたいというメッセージを強く発信する「秋の隕石」。「舞台芸術は、『自分が見に行くことで迷惑になる』と思ってしまう人をこれまで阻害してきた。それをやめたい。舞台芸術という形式への、根底的なところからの問いかけを行いたい」と岡田。新しい芸術祭のかたちに期待したい。

チケットは8月7日10:00から一般販売。一般販売期間の30%OFFでチケットが購入できるお得なセット券や、会員限定の先行販売、各プログラムの詳細は公式ウェブサイトをチェックしてみて欲しい。

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