公開日:2025年11月8日

EASTEAST_TOKYO 2025、都市の余白から生まれる、新たな価値観

東京・千代田区の科学技術館で「EASTEAST_TOKYO 2025」が開催! 国内外からアートギャラリーやアーティストらが集まる。

東京を拠点に、アートを軸にしながら音楽、フード、出版、デザインなど多様なカルチャーを横断してきたEASTEAST_は、2年ぶりに「EASTEAST_TOKYO 2025」を開催。2019年に活動を始め、フェアという形式を拡張しながら、表現と社会のあいだにある“共有地”を探り続けてきた。3回目となる今回は、科学技術館をメイン会場に、アジア各都市のスペースやアーティストが集まり、価値観や実践が交差する場になる。会期は11月8日から11月10日まで。

科学技術館を舞台に様々な価値観を交換する

東京・皇居に隣接する北の丸公園内の科学技術館を舞台に開催中の「EASTEAST_TOKYO 2025」。26のギャラリーやスペースが展示やパフォーマンス、映像、音を通してそれぞれの実践を持ち寄り、会場全体が都市の縮図のような風景を生み出す。壁だけでなく床や構造物で緩やかに区切られた空間は、訪れた人々が思い思いに歩き、作品を通じて自然に対話を始めるよう設計されている。

エントランスを抜けると、大きなエレベーターホールを中心に、枝状に広がる5つのブースが展開。ギャラリーやショップが点在し、個展形式の展示やコラボレーションが連なる。奥には、映像とサウンドを軸にした「EE_V/S/P Program」、ライブパフォーマンスを行う「Stilllive」がある。食と会話を媒介に人々が集う「EE_Kitchen & Bar」では、今年は「TYON」と「繁邦/Shigekuni」がキッチンを担当し、バーには「OPEN BOOK」と「草原」が参加。通路の角や隙間には小規模な出版レーベルやインディペンデントスペースも点在し、鑑賞と交流、思考と休息が自然に行き来する構成だ。

屋外の「EE_Park」では、アーティストコレクティブGCmagazineによる《TURN OFF THE 5 PARADIGM LIGHTS》が展示されている。真夏の鈴鹿サーキットを手押しで一周するパフォーマンスと、写真や映像、レーシングスーツ、車両が構成される。写真という行為に潜む“労働”や“過程”を問た作品だ。

TURN OFF THE 5 PARADIGM LIGHTS展示風景

また同会場内では、“都市と青年”をテーマに制作を続けるGILLOCHINDOX☆GILLOCHINDAEによるアートプロジェクト「獸(第3章/EDGE)」が同時開催中だ。7年にわたり展開する長編シリーズの本作では、作家の原風景である多摩川の河川敷を再構築。約6万本のススキと全長15メートルの人工の土手が会場に立ち上がり、都市と自然の狭間に広がる壮大な風景を生み出した。映像作家・太郎による映像や、カネコアヤノJUN INAGAWATohjiらによるパフォーマンスが交錯し、未成熟な衝動と現代の裂け目を映し出す、エネルギーに満ちたインスタレーションだ。

獸(第3章/EDGE)展示風景

「文化的エコシステム」を育てる

EASTEAST_は、アートや音楽、フードといったカルチャーを通じて価値観を共有し、新しい視点を生み出すためのプラットフォームとして活動している。制度やマーケットの外側から、表現のリアリティをどう維持できるかを問い続ける実践の場でもある。

ファウンダーの武田悠太は「お金にも効率にもなびかずに、ただ自分らしくいること。社会のなかでそういう姿を見たときに、アートってやっぱりいいなと思う。集まって“おもしろいな”と感じられる時間を共有できる場所をつくりたい。そういう場がなくなったら、東京の価値がなくなると思いました」。さらに、「SNSやデジタルの発展で、人々の価値観がどんどん分散していく一方で、“数字で測れる価値”ばかりが重視されている。かつての“あれかっこよかったよな”“みんながいいと言っていたから見てみよう”といった感覚的な価値が失われつつある。EASTEAST_は、そうした数字化できない価値にこそ目を向けたい」と続ける。

今年の会場設計では、“思い通りに統制しない”ことが意識された。無料で入場できる「EE_Park」とチケット制の主会場を併走させることで、観客が「買う/売る」という関係を超えて関わる余地をつくった。科学技術館という“制度的な建物”が、一時的に人々の思考と交流の実験場へと変わる構想だ。

国やジャンルを交えた展示

今年は、東京、ソウル、バンコク、ホーチミン、香港など、アジア各都市のギャラリーとアーティストが参加している。展示の規模や形式は異なれど、そこに通じていたのは「ローカルに根ざしながらも他者と関係を結ぶ」という姿勢だ。それぞれの展示は、国やジャンルを越えて共鳴し、来場者が体験する時間そのものが文化的な“対話”の場となっていた。

韓国・ソウル、アモーレパシフィック美術館の近くに拠点を構える「CYLINDER」は、制度と現場を媒介するオルタナティブスペース。会場では、幼少期は日本に住んでいたというカン・ミンソの新作を中心に展示している。過去と現代の人との関わりを作品に落とし込んだペイントと彫刻は、見る者をノスタルジックな気分にさせてくれるだろう。作家のカン・ミンソは「私は14世紀のアートに興味があって、私の作品も当時の雰囲気を出したくてペイントも卵テンペラで作成しました」と話す。

CYLINDER展示風景

また、今回初参加となる韓国・ソウルのギャラリー「P21」は、イ・ドンヒョンハ・ジウンに加え、近年国際的に注目を集めるシン・ミンの作品を紹介。彼女はファストフードの包装や紙袋といった身近な素材を用い、サービス労働やジェンダーの構造を批評的に可視化する彫刻を制作している。近作では、「Art Basel Hong Kong 2025」で「MGM Discoveries Art Prize」を受賞したシリーズ《Ew! Hair in My Food!!》に通じる作品を展示。観る者に現代社会の“裏側”を問いかける。

P21展示風景
P21展示風景

代官山を拠点とする「AKIINOUE」は、詫摩昭人岡﨑龍之祐による展示「瞬光」を開催。世代も手法も異なるふたりが「即興性」と「生成の瞬間」をテーマに共鳴して実現した本展では、ふたりの作品が交差する光のリズムが漂い、刹那の創造のエネルギーを感じる。詫摩は、自作の大型刷毛で油絵具を擦り下ろす絵画シリーズ「逃走の線」で知られ、哲学者ジル・ドゥルーズの“逃走=生成”の思想を描き出す。いっぽう、岡﨑は布を用いた即興的な制作を通して、自然や祈りと共生する感覚を探る。「JOMONJOMON」シリーズでは縄文土器の曲線を現代に再解釈し、触覚的な造形で生命の循環を示した。

AKIINOUE展示風景
AKIINOUE展示風景

カルチャーがひらく“共有地”のこれから

「EASTEAST_TOKYO 2025」は、いわゆるアートフェアではなく、カルチャーの実践が交わる場として存在していた。言葉、感覚、食、音を通じて価値観を共有し、人々がつながる。その小さな営みの積み重ねが、都市に新しい文化的土壌を育てていく。異なる背景を持つ人々が交わり、考え、語り合うその姿こそが、EASTEAST_が描く文化的エコシステムの実像なのかもしれない。

福島 吏直子(編集部)

福島 吏直子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集部所属。編集者・ライター。