公開日:2025年1月31日

円空による両面宿儺が東京に!「魂を込めた円空仏-飛騨・千光寺を中心にして-」展(三井記念美術館)レポート

『呪術廻戦』で知名度が広がった両面宿儺(りょうめんすくな)とは? 江戸時代の山林修行僧が手がけた「円空仏」が集まる本展の見どころをお届け

会場風景より、《両面宿儺像》(千光寺蔵)

『呪術廻戦』で人気、「両面宿儺」を円空も彫っていた

三井記念美術館で特別展「魂を込めた 円空仏―飛騨・千光寺を中心にして―」が開催される。会期は2月1日〜3月30日。

見どころは岐阜県高山市の千光寺所有の「両面宿儺(りょうめんすくな)像」で、日本橋では初めて展示される。「両面宿儺」の名は、人気マンガ『呪術廻戦』に史上最強最悪の呪いの王として登場し近年広く知られるようになったので、気になる人も多いのではないだろうか。

会場入口

円空(えんくう)は江戸時代の山林修行僧で、日本各地を巡り多くの木彫の神仏像を残した。現代彫刻にも通じる荒々しい削り跡と柔和な表情が相まった「円空仏」と呼ばれる特徴的な仏像は、現代でも大きな人気を集めている。その現存数は5000余体とも言われるなかから、本展では岐阜県飛騨地方の円空仏が一堂に会す。円空仏の解釈に一石を投じる視点もあり、円空に馴染みがある人にもそうでない人にも楽しめる展示だ。

会場風景

削り跡に宿る仏教の本質

展示室1「樹神とノミの削り痕」では、材となる「樹木」に神仏を観想し、「樹神」の姿を求めて彫刻した円空の特徴を紹介。円空は樹木を「削る」こと自体に仏教儀礼の意味をもたせ、「削り痕」をそのまま残した。歴史的な観点では、そのルーツに平安時代の樹神信仰すなわち「立木仏(たちきぶつ)」があるという。

会場風景より、《地蔵菩薩立像》(千光寺蔵)

展示室3「護法神」では千光寺(高山市)と飯山寺(高山市)に残る、総高2mを超える同様の構造・像容の作例を紹介。いずれも半裁した丸太を、さらに半分に割り、木心側を像の正面として各部を彫出している。

会場風景より、《御法神》(千高寺、飯山寺)

慈悲と忿怒(ふんぬ)の相を併せ持つ両面宿儺坐像

多神教である仏教には多くの仏が存在する。それらを経典や図像集から身分や役割によって分類すると「如来」「菩薩」「明王」「天」にわけられるのが一般的。また顔の表情は、大まかに「如来」「菩薩」が慈悲相、「明王」「天」が忿怒相にわけられる。しかし、円空の像は忿怒相のなかにも慈悲がにじみ出てくる像があり、千光寺の両面宿儺坐像はまさに慈悲と忿怒の相を併せ持つ像だ。

会場風景より、《両面宿儺像》(千光寺蔵)

円空仏を多く所有する千光寺は、1600年前に両面宿儺によって開山し、1200年前に真如親王によって真言密教の寺として建立されたと伝わる。両面宿儺とは飛騨高山に実在したと言われる豪族であり、またこの地域の守護神として古くから祀られてきた。

両面宿儺に関する言い伝えは様々あり、古いものだと日本書紀まで遡る。ここで登場する両面宿儺は「体はひとつだが顔がふたつある、頭頂部でくっついていてうなじがない、手足も4本ずつあり膝の裏や踵(かかと)がない」などの特徴を持ち、天子の意に従わず人民から略奪を行う逆賊・異形の怪物だとされる。

いっぽうで飛騨地方に伝わる宿儺像は、このような危険な存在としてではなく、地域を中央集権から守った英雄としての姿だ。武勇に優れ、神祭の司祭者や農耕の指導者でもあったとされる。

円空による「両面宿儺座像」には、円空なりの解釈が見て取れる。特徴は宿儺の両方の顔を並べて彫っているところ。日本書紀の記述では顔は前後にあるとされ、ほかの作者による石仏などではその姿で表現されることが多いが、円空は両面を左右に並べて彫っている。このため、その存在の多面性が生き生きと感じられるのだ。

会場風景

観音像に龍神、様々な円空仏が大集合

本展ではほかにも多様な円空仏を展示。観音信仰や龍神と宝珠、白山神など複数のキーワードをもとに円空の魅力が紹介されている。

会場風景より、《三十三観音立像》(千光寺蔵)
会場風景より《稲荷大明神坐像》(住吉神社蔵) 狐の頭部を持ち、体部は手の部分を彫出さないことで、全体が白狐のような姿で表現されている
会場風景より、聖観音菩薩立像、千手観音菩薩立像、龍頭観音菩薩立像(清峯寺蔵)

筆者のお気に入りは《宇賀神像》。古来より食物と福徳の神として信仰された人頭蛇姿の神様だ。体のとぐろ部分の大胆なデフォルメはいつ見ても面白い。栗のような頭部のフォルムは宝珠のかたちのようでもある。

会場風景より、《宇賀神像》(千光寺)

人々の祈りの縁となった円空仏。その唯一無二の造形の魅力を味わいながら、自分の好きな円空仏を探してみてはいかがだろうか。

会場風景

福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集長。『ROCKIN'ON JAPAN』や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より「Tokyo Art Beat」編集部で勤務。2024年5月より現職。