「被爆80年企画展　ヒロシマ1945」が恵比寿の東京都写真美術館で開幕。被爆直後の広島を克明にとらえた約160点を展示

第2次世界大戦末期の1945年8月6日午前8時15分、米軍によって人類史上初めて都市の上空に原子爆弾が投下された広島。その3日後には長崎も原爆によって焦土と化した。

2025年は被爆80周年という節目の年。東京都写真美術館では、「被爆80年企画展　ヒロシマ1945」が5月31日に開幕した。会期は8月17日まで。

1945年8月6日から約5ヶ月間の記録

本展では、被災した広島市民、報道機関のカメラマン、写真家たちがそれぞれの視点から撮影した広島の原爆記録写真と映像を展示。撮影者の所属や資料の所蔵者に基づいて、広島原爆被災撮影者の会、中国新聞社、朝日新聞社、毎日新聞社、同盟通信社、林重男、菊池俊吉、日本映画社の8資料群に分類し、約160点の写真と2点の映像作品が公開される。原爆記録写真を各自で所蔵してきた報道機関が連携し、共同で展覧会を開くのは今回が初めて。

展示は、1945年8月6日から同年末までの約5ヶ月間を3つの時期に分けた全3章から成り、広島の原爆被害の実態を時系列に近い構成で伝える。展示作品には、8月6日当日と、連合国軍による占領統治が始まるまでの約1ヶ間に撮影されたものが多数含まれる。占領期の報道統制と米軍による写真などの提出要求に撮影者が抵抗し、自らネガの散逸を防いだことから現存する資料も多い。

8月6日当日、市民の目線で写された広島

第1章「きのこ雲の下で ～8月6日の記録～」では、広島へ原爆が投下された当日に撮影された作品を紹介。いずれも動員されていた市民や旧制中学の生徒が、爆弾が原爆とは知らないまま傷ついた街や市民の姿を体験者の目線で記録したものだ。

きのこ雲の写真は、中国新聞社で働く当時17歳の山田精三が原爆投下からわずか約2分後に撮影したものや、当時16歳の深田敏夫が爆心地からもっとも近い地点でとらえたものなど。写真に沿えられた撮影時のエピソードも当時の様子を生々しく伝える。

爆心地周辺の地表は3000度から4000度、爆風は秒速約280mにおよび、爆心地から約2kmの範囲の建物はほとんどが全焼、全壊した。中国新聞カメラマンだった松重美人撮影の5点は、市内にいた人々の惨状を伝える唯一の写真だという。松重はきのこ雲の下で焼け出され苦しむ人々を前にためらった末、シャッターを切ったという。

壊滅した街、傷ついた市民の姿

第2章「焦土の街 人間の悲惨 ～あの日からの1ヵ月間～」では、8月7日以降に市民や日本軍の関係者、県外から入った朝日新聞、毎日新聞、同盟通信社の記者たちが撮影した写真を展示。米国の調査団などが広島に入り、地上から写真に収める前の記録写真であり、希少性が極めて高いものだという。

8月10日には大本営調査団が広島市内で「新型爆弾」は「原子爆弾ナリト認ム」との見解をまとめたが、市民がその事実を知るのは終戦後だった。写真には、壊滅した街、背中が大きく焼けただれた女性など大やけどで苦しむ市民の姿、困難を極めた救護活動の様子がとらえれており、原爆放射線が最初に引き起こした急性障害も記録された。傷ついた市民の撮影を命じられ葛藤する撮影者の言葉も紹介されている。

占領下の苦闘と、撮影者が見つけた復興の萌芽

原爆投下から1ヶ月以上が経っても地域再建の見通しは立たず、多くの市民がやけどや原爆放射線による急性障害により亡くなっていた。親を失った「原爆孤児」は2千人とも言われている。第3章「遠い再建 占領下の苦闘 ～1945年末まで～」は、日本が連合国軍による占領統治へ移行し、米国の調査団が相次いで広島入りした時期に撮影された写真を紹介。

松本栄一撮影の《焦土に咲いたカンナの花》など、破壊の爪痕のなかで撮影者たちが街で見つけた復興の萌芽や、懸命に生き抜こうとする市民の姿もとらえられている。この章では、占領政策への批判になりかねない原爆報道が規制された9月19日発令のプレスコード（報道統制）の影響など、当時撮影者たちが記録した写真が新聞報道でどのように扱われたのかについても概観する。

また戦時中に多くのニュース映画を制作した国策会社・日本映画社が、原爆で壊滅した広島で撮影した記録映像2本を上映。さらに同社のスチール担当として撮影班に加わった林重男、菊池俊吉にフォーカスし、「物理班」として市内の破壊実態をとらえた林の写真、学術調査団の「医学班」として菊池がとらえた被爆者の写真なども展示する。

広島市では、1945年12月末までに推計で約14万人が亡くなったとされる。戦後80年、被爆80年のこの夏、人々が守り抜いた貴重な記録に触れ、原爆の悲惨さをあらためて心に刻む機会としたい。