エドガー・ドカ 家族の肖像(ペレッリ家) 1858-69
「印象派の殿堂」として知られるパリ・オルセー美術館から10年ぶりにコレクションが大規模来日する展覧会「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」が国立西洋美術館で開催中。会期は2026年2月15日まで。
約100点の作品で構成される本展は、オルセー美術館所蔵の傑作およそ70点を中心に、「室内」というテーマを通して印象派の知られざる魅力に迫る。なかでもエドガー・ドガの代表作《家族の肖像(ベレッリ家)》(1858〜69)の初来日は大きな話題を呼んでいる。

印象派といえば屋外での光の表現が思い浮かぶが、本展はそうした従来の見方を覆す内容だ。1870年代のパリという近代都市の変貌期において、画家たちは屋外の光だけでなく、都市生活で重要性を増した私的室内空間にも深い関心を寄せていた。とくにドガやピエール=オーギュスト・ルノワールが残した室内画の傑作群は、印象派と室内空間の意外なほど深い関係性を物語っている。
第1章「室内の肖像」は、19世紀後半に中産階級に広まった肖像画の変化に焦点を当てる。画家たちは人物を日常の室内で描き、調度品や身の回りの品からモデルの性格や社会的地位を表現した。アトリエや書斎の細部から家族関係の機微まで読み取れる作品群は、たんなる肖像を超え、社会的記録として現れる。


続く第2章「日常の情景」では、19世紀の家庭生活の豊かな描写を紹介。ここではピアノを弾いている女性、本の世界に深く入り込む姿、針仕事に集中する穏やかな時間など、家庭のなかで過ごす何気ない瞬間が、画家たちのまなざしによってとらえられている。


第3章「室内の外光と自然」では、印象派の真骨頂である光への探求が室内でどう花開いたかが明らかになる。バルコニーやテラス、19世紀に流行した温室、そして鮮やかな花を描いた静物画を通して、画家たちが自然と室内の一体化を追求した軌跡を辿ることができる。ジャポニスムの影響を受けた装飾的な作品群にも注目してほしい。


そして最終章「印象派の装飾」では、本展のもっとも野心的な側面が展開される。「純粋芸術」と「装飾美術」の境界を問い直すこの章では、エドゥアール・マネ、クロード・モネ、カミーユ・ピサロ、ルノワールらが手がけた私邸装飾から、モネの「睡蓮の間」という壮大な公的プロジェクトまでが紹介されている。


本展は印象派を新たな角度から再発見する貴重な機会であり、同時に19世紀パリの都市生活と芸術の関係性についても深い洞察をもたらしてくれる。会場には本展オリジナルのグッズも豊富に用意されているので、あわせてチェックしてほしい。

灰咲光那(編集部)
灰咲光那(編集部)