公開日:2025年4月18日

「瀬戸内国際芸術祭」や直島とあわせて巡りたい。香川のおすすめ建築スポット6選

「瀬戸内国際芸術祭2025」が4月18日に開幕。あわせて訪れたい香川のスポットを、建築に注目してアクセスガイドやマップ付きで紹介(撮影:編集部 [*]をのぞく)

香川県庁舎東館1階ロビー

「瀬戸内国際芸術祭」をはじめ、多彩なアートイベントやアートスポットを擁し、国内外から観光客が訪れる香川県。丹下健三、安藤忠雄、谷口吉生、SANAAといった建築家が手がけた施設も点在している。ここでは、建築やデザインファンにもおすすめスポットをピックアップして紹介。芸術祭を訪れたら、一緒に足を伸ばしてみてはいかが?

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

JR丸亀駅のすぐ前に位置する丸亀市猪熊弦一郎現代美術館は、1991年に開館。美術館を駅前に建てること、そして作家の記念館ではなく同時代の表現を紹介する現代美術館にすることを美術館設立の条件としたという画家・猪熊弦一郎(1902〜1993)の考えを受け継ぎ、猪熊の作品約2万点を収蔵・紹介するほか、現代美術を中心とした国内外のアーティストの企画展を行っている。

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

美術館そのものが額に入った絵画のようなファサードが特徴の建物は、数々の美術館建築を手がけた谷口吉生の設計によるもの。来場者を迎える猪熊の巨大壁画《創造の広場》は、壁に絵が描かれているように見えるが、じつは象嵌(ぞうがん)で作られている。背景となる白い大理石の上に、砕いた黒い御影石を埋め込むことで、ドローイングを再現。そのため時間が経って絵の顔料が色落ちするといったことがないそうだ。

猪熊弦一郎《創造の広場》(部分)

建物は3つの展示室と、ライブラリー、ホール、カフェなどを擁する3階建て。屋上庭園には、猪熊と交流のあったイサムノグチの没後、ノグチが制作拠点とした牟礼(むれ)から持ってこられたという石が置かれている。天井高約7mの展示室や、きっちりと揃えられた床の目地、ふんだんに取り入れられた自然光など、随所に谷口のこだわりが垣間見える。展覧会だけでなく、建物の細部にも注目しながら鑑賞したい。

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 内観
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 内観

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
住所:香川県丸亀市浜町80-1
アクセス:JR丸亀駅から徒歩1分

イサム・ノグチ庭園美術館

1999年に高松市・牟礼に開館したイサム・ノグチ庭園美術館は、20世紀を代表する彫刻家であるイサム・ノグチが遺した作品や住居などを公開している美術館。牟礼は花崗岩の一種である庵治石の産地として知られる。1964年に初めてこの地を訪れたノグチは、「硬い石に向き合いたい」と石の作家である和泉正敏をパートナーに1969年、アトリエと住居を構え、以降晩年の約20年間にわたってニューヨークと牟礼を行き来しながら制作に励んだ。

イサム・ノグチ庭園美術館 外観

ここでは仕事場であった石壁サークルや酒蔵を移築した展示蔵、住居などを作品とともに公開。晩年に制作された彫刻庭園を含め、牟礼をはじめとする各地の石を使って作られた彫刻が屋内外の随所に置かれている。新展示蔵のなかでは様々なサイズやかたちの照明彫刻「AKARI」も展示。ノグチの最晩年のアトリエだったことから、作業中の線が残った石など未完の作品も置かれており、静かで開放的な環境のなかで、ノグチの作品世界にじっくりと浸ることのできる贅沢な空間だ。来館は完全予約制。

イサム・ノグチ庭園美術館
住所:香川県高松市牟礼町牟礼3519
アクセス:JR高松駅から車で約25分

香川県庁舎

1958年に竣工した香川県庁舎東館は、丹下健三による初期の代表作であり、日本のモダニズム建築を代表する建築のひとつ。2022年には重要文化財に指定された。梁と柱の組み合わせが特徴的な外観に、通りとスムーズにつながる開放的なコンクリート柱のピロティやエレベーター、階段、トイレなどの共用設備を建物中心部に配置したセンターコア方式などの特徴は、その後の全国自治体庁舎のモデルにもなったという。

香川県庁舎 外観
香川県庁舎 ピロティ

猪熊弦一郎の陶板壁画が人々を出迎える1階ロビーは、建設当初のものが数多く残り、丹下の研究室によってデザインされたベンチやスツールなどの家具も当時から変わらず使われている。現在も様々な催しで使われている県庁ホールは、建設当初の意匠がほぼ残っているという。左右に配置された白と青の引き戸などの日本の伝統的な建築様式とモダニズム建築との融合を目指したことが窺える内装になっており、剣持勇が手がけたインテリアデザインも見どころだ。

香川県庁舎 県庁ホール

なお、県庁舎から車で10分ほどの場所には、同じく丹下が手がけ、老朽化による解体が決定している旧香川県立体育館もある。「つり屋根構造」と呼ばれる船のような屋根が特徴的で、「船の体育館」の異名を持つ。東京オリンピックのために1964年に建設された国立代々木競技場と同時期に作られたことから「双子」のような作品と位置付けられている。すでに閉館していることから中に入ることはできないが、外を一周して外観を見ることができるので、あわせて訪れてみてはいかがだろうか。

旧香川県立体育館

香川県庁
住所:香川県高松市番町四丁目1番10号
アクセス:JR高松駅から徒歩約20分

四国村ミウゼアム

屋島山麓の広大な敷地に広がる四国村ミウゼアムは、江戸時代から大正時代に四国4県に建てられた住宅や砂糖しめ小屋、農村歌舞伎舞台、米蔵など、33棟の建物を移築復元して公開している野外博物館。加藤陸運株式会社(現カトーレック株式会社)の創業者・加藤達雄の「民家を守りたい」との思いから1976年に生まれた。設立に際しては、ランドスケープに関して彫刻家・流政之から助言を受け、石畳の坂「流れ坂」や、階段状の石を水が流れ落ちる作品「染が滝」などが制作された。

四国村ミウゼアム 館内
四国村ミウゼアム 館内

四国の里山さながらの敷地内には、重要文化財に指定されている住宅をはじめとする多様な古民家群が点在し、吊り橋を渡ったり、石階段を登ったりと、ちょっとしたハイキング気分で自然のなかを歩きながら建物を巡る。四国村では重要有形民俗文化財を含む約2万点の古民具を収蔵しており、その展示を通して、当時の生活に触れることもできる。

四国村ミウゼアム 館内

さらに古民家だけでなく、2002年には西奥の傾斜地に、加藤の美術品コレクションを展示する美術館として、安藤忠雄設計による「四国村ギャラリー」がオープン。市街を一望できる水景庭園も見どころだ。

四国村ギャラリー 内観
四国村ギャラリー 水景庭園

四国村ミウゼアム
住所:香川県高松市屋島中町91
アクセス:ことでん琴電屋島駅から徒歩5分、JR屋島駅から徒歩10分

香川県立アリーナ「あなぶきアリーナ香川」

「あなぶきアリーナ香川」は、丹下健三設計による旧香川県立体育館に代わる施設として、瀬戸内海を望むサンポート高松に、2025年2月にオープンした。中四国最大規模となる最大1万人収容のメインアリーナを備え、プロスポーツの試合やライブ、大規模な展示会などを開催することができる。

あなぶきアリーナ外観(*)

ゆるやかな曲線の屋根が特徴的な建物は、SANAAが設計。アリーナでは、観客席上部に壁を設けず、交流エリアと競技フロア、観客席がひとつにつながった空間になっている。瀬戸内海の交通拠点に生まれた、新たなランドマークになりそうだ。

あなぶきアリーナ内観(*)
あなぶきアリーナ内観(*)

あなぶきアリーナ香川
住所:高松市サンポート6番11号
アクセス:JR高松駅から徒歩約4分、ことでん高松築港駅から徒歩約4分

東山魁夷せとうち美術館

東山魁夷せとうち美術館は、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館と同じく谷口吉生の設計による美術館。日本画家・東山魁夷の祖父が香川の坂出市櫃石島出身で県とゆかりが深いことから、遺族より約ほどの270点版画作品の寄贈を受け、2005年に開館した。櫃石島と瀬戸内海を望む海辺に建てられた美術館で、周辺の景観と融和するシンプルな石張りの外観が特徴。展示室を降り、大きな窓ガラスから瀬戸内海と瀬戸大橋を一望できるミュージアムカフェのラウンジも見逃せない。

東山魁夷せとうち美術館
住所:香川県坂出市沙弥島字南通224-13
アクセス:JR坂出駅北口から路線バス瀬居線「東山魁夷せとうち美術館」下車

瀬戸内海の島々にある美術館建築

このほか、瀬戸内国際芸術祭の会場となる瀬戸内海の島々にも数々の名建築が点在する。直島には安藤忠雄設計のベネッセハウス地中美術館李禹煥美術館、2025年春に開館に開館する直島新美術館、妹島和世 + 西沢立衛 / SANAAによる海の駅「なおしま」、豊島には西沢立衛の設計による豊島美術館などがある。また岡山県の犬島には三分一博志の設計による犬島精錬所美術館も。犬島の集落に展開する「家プロジェクト」は、アーティスティックディレクターに長谷川祐子、建築家に妹島和世を迎え、様々なアーティストの作品を公開している。

後藤美波

後藤美波

「Tokyo Art Beat」編集部所属。ライター・編集者。