公開日:2025年3月7日

若き力士の化粧まわしに、キース・ヘリングの作品が。ウクライナ出身・安青錦関とのコラボはどのように実現した?

戦禍を逃れて来日した20歳の力士と、平和や自由を求めるメッセージを発信したキース・ヘリングの作品が共鳴

左:安青錦 右:キース・ヘリング 無題(サミット・ドローイング) 1985 紙にフェルトペン 11x14inch Keith Haring artwork © Keith Haring Foundation

1月12日に東京・両国国技館で開幕した大相撲初場所の土俵入りで、キース・ヘリングの作品をモチーフにした化粧まわしが話題を集めた。

白地にオレンジの背景が目を引くこの化粧まわしをつけていたのは、ウクライナ出身の安青錦関。3月9日から大阪のエディオンアリーナ大阪で始まる三月場所の番付で新入幕を果たした20歳の若手力士だ。所属する安治川部屋では現師匠が創設してから初の幕内力士となり、初土俵から所要9場所での入幕は、史上最速タイのスピード昇進だという。

そんな相撲界の若きホープは、なぜキース・ヘリングの化粧まわしを着けていたのだろうか。

キース・ヘリング作品とコラボレーションした化粧まわしを身につける安青錦

化粧まわしとは、相撲で力士が土俵入りの際に身につけるまわしのこと。取り組みの際につけるまわしとは違い、豪華な刺繍がエプロンのような「前垂れ」に施され、それぞれの力士が個性豊かな化粧まわしをつけている。通常は、企業や後援会、個人のスポンサーなどが宣伝も兼ねて制作し、デザインは力士の好みや出身にちなんだものが多い。

キース・ヘリング作品の化粧まわしは、安治川部屋の後援会長を務める中村キース・ヘリング美術館館長の中村和男の発案により制作された。安青錦は、母国ウクライナで相撲をしていたが、ロシアの軍事侵攻から逃れて2022年に来日。同年に初土俵を踏んだ。そんな力士の姿に、平和への願いを込めたキース・ヘリングの作品を重ねたをことをきっかけに、中村から化粧まわしのコラボレーションを打診。ニューヨークのキース・ヘリング財団や相撲協会の賛同も経て実現したという。化粧まわしに描かれているのは、ヘリングが1985年にジュネーブで開催されたサミットのためにデザインを手がけた作品だ。

左から:安治川親方、安青錦、中村和男、安治川部屋のおかみ・絵莉夫人
無題(サミット・ドローイング) 1985 紙にフェルトペン 11x14inch Keith Haring artwork © Keith Haring Foundation

このコラボレーションの背景や作品について、中村にメールインタビューを行った。

──どのような経緯で今回のコラボレーションに至ったのでしょうか?

私が後援会長を務めている安治川部屋の力士、安青錦関は、ウクライナ出身の期待される若手力士です。ご存知のように日本の伝統文化を引き継ぐ相撲界において、海外出身の力士が活躍するのは決して容易なことではありません。

そのなかで力士は努力し、ついに十両昇進し、新入幕を果たしました。母国ウクライナの戦地に心を馳せ、平和を切に願いながら、厳しい稽古に励む姿が目に浮かびます。

私は2007年にアメリカ現代美術を代表するキース・ヘリングの作品を展示する世界で唯一の美術館を創設しました。80年代の混沌としたニューヨークを駆け抜けたヘリングのアートはシンプルでポップでありながら社会への強いメッセージが込められています。ヘリングはアートを通じて、平和への希求、人類の希望と夢、生命の尊さ、そして自由への強いメッセージを生涯発信し続けました。1988年には広島に訪問し、同年開催された平和コンサート「平和がいいに決まってる」のためのポスターを制作しています。

今回の化粧まわしのコラボは、31歳という若さでこの世を去ったヘリングの平和への願いと覚悟を宿したアートを、相撲の土俵に立つ力士の姿に重ね合わせたことがきっかけです。安治川部屋の親方にご相談のうえ、ニューヨークのキース・ヘリング財団にご理解と賛同をいただき、同時に相撲協会のご理解も得ることができました。

この化粧まわしを通じて、日本の伝統文化である相撲の世界から、平和へのメッセージが世界中の人々に届くことを願っています。

──化粧まわしに使われたキース・ヘリングの作品について教えてください。

キース・ヘリングは平和をテーマにした作品を数多く制作しています。

本作では、ふたりの人物が両手を掲げて大きな地球と一緒に踊っているよう描かれています。ふたりの顔には表情が無く、性別も年齢も何もわかりませんが、画面からは喜びと強い力が感じられます。ヘリングの根本的なメッセージは、深い人間愛と愛の精神です。シンプルでありながら生き生きとした線と鮮やかな色彩を通じ、そのメッセージは明確に表現されています。彼がいまここにいたらきっとこう言うでしょう。

「ともに力を合わせれば、この世界をより良い場所に変えることができる!」

後藤美波

後藤美波

「Tokyo Art Beat」編集部所属。ライター・編集者。