公開日:2024年11月5日

メゾン マルジェラ「アーティザナル」のショーを“事後解剖”。「アーティザナル 2024 エキシビション 東京」が恵比寿で開幕

パリのショーで発表されたジョン・ガリアーノによるオリジナルルック25点を、実験室のような空間で展示。会期は11月2日〜11月24日。入場は予約優先制。

「メゾン マルジェラ アーティザナル 2024 エキシビション 東京」会場風景

セーヌ川にかかる橋の袂で発表された2024「アーティザナル」コレクション

メゾン マルジェラのオートクチュールコレクションである、2024「アーティザナル」コレクションを多角的に考察する展覧会「メゾン マルジェラ アーティザナル 2024 エキシビション 東京」が、11月2日から東京・恵比寿のメゾン マルジェラ トウキョウ上階(キョウデンビル2、3階)で開催されている。

ジョン・ガリアーノによる2024「アーティザナル」コレクションは、今年1月にパリ・セーヌ川にかかるアレクサンドル3世橋の下に作られた架空のブラッスリーを舞台に発表されたもの。1930年代のパリで夜の社交場をとらえたブラッサイの写真にインスピレーションを受け、パフォーマンスや映像を交えたシアトリカルなショーが展開された。本展はそんな2024「アーティザナル」ショーの世界観を体感できる展覧会だ。

「メゾン マルジェラ アーティザナル 2024 エキシビション 東京」会場風景

ショーの「ポスト・モーテム(事後解剖)」としての展覧会

「こんにちは、東京」という言葉から始まるガリアーノ本人によるオーディオガイドを手に会場内に入ると、闇に包まれた空間が広がる。階段を上がり、3階がメイン会場だ。廊下を抜けていくと、ブラッサイによるパリの婦人マダム・ビジューのポートレイトが暗闇に浮かび上がり、来場者を迎え入れる。

暗い通路の奥に浮かび上がる「マダム・ビジュー」

鏡張りの壁面に囲まれた展示室は、所々にフラスコやルーペが配され、さながら実験室のよう。ガリアーノが本展をショーの「ポスト・モーテム(事後解剖)」と位置付けているように、コレクションを構成する様々な要素を解剖し、インスピレーション源から制作プロセス、そして実物のルックまでを紹介する。展示方法は、2月にパリにあるメゾン本社で行われたプライベートビューイングの形式を発展させたもので、ガリアーノによって考案された。

「メゾン マルジェラ アーティザナル 2024 エキシビション 東京」会場風景
「メゾン マルジェラ アーティザナル 2024 エキシビション 東京」会場風景

職人技と独自の技法を間近で観察

本展の大きな見どころは、25点のオリジナルルックだろう。パリのショーで実際にモデルたちが纏ったドレスやコート、さらには帽子やバッグの小物なども間近で見ることができる。今回のコレクションでイメージされたのは、パリの石畳を歩く夜の女性たち。それぞれに物語があり、自分の運命をコントロールしているかのような力強い女性たちのキャラクターを、多様な独自のテクニックで服に込めた。

シルクの「アクアレリング」チュールドレス

たとえば、水が滴る濡れた布地のようなドレープが特徴的な技法「アクアレリング」は、フォーヴィズムの画家キース・ヴァン・ドンゲンによる色使いに着想を得たもの。ほかにも、縫いつけられた花びらやシャーリングなどの加工、素材の断片などのディテールが裾から上に向かって「デグレード(劣化)」していく様を具現化した「レトログレーディング」、布地を斜めにカットすることで生地が持つ本来の伸縮性を引き出した「バイアス・カッティング」、レースなどを貼り合わせ、縫い目のないシームレスなフォルムを生み出す「シームレース」といった技法を組み合わせて作られたドレスの数々が展示されている。

レトログレーディングを施したチュールドレス
レトログレーディングを施したシームレースドレス

解剖台に寝かされるように平らに置かれたドレスは、ディテールがライトアップされて浮かび上がり、目を凝らすとその繊細な作りに驚かされる。ガラスケース越しなどでなく、直接ドレスの構造を観察することができるのも贅沢なシチュエーションだ。

「アクアレリング」されたシームレースドレス

立体的な動きのあるコートに採用されているのは、ルックをかたち作るキャラクターの感情を強調した「エモーショナル・カッティング」。何かを掴むようなジェスチャーを表現したミリタリーコートや、身を隠すような動きをしたトラウザースーツなどが、衣服の背後にある物語への想像を掻き立てる。また、ガラスドームのなかには、クリスチャン・ルブタンとのコラボレーションによる赤いソールの「タビ」が飾られている。

エモーショナル・カッティングを施したミリタリーコート
クリスチャン・ルブタンとのコラボレーションによる「タビ」

ガリアーノを魅了したマダム・ビジュー

今回のコレクションで、ガリアーノの大きなインスピレーション源となったマダム・ビジュー。ブラッサイが撮影した、パリのブラッセリーに座る彼女の姿は、高級感がありながら着古されたコートにたくさんのジュエリーをつけ、ストッキングはずり落ちている。

ブラッサイによるマダム・ビジューのポートレイト

このマダム・ビジューのシルエットを作り上げるため、ガリアーノは高貴な素材と質素な素材を入れ替える「リバース・スワッチング」の技法を用いた。白いスポンジを切り裂かれた黒のストッキングで覆ったジャケットは、ボリューム感のある上半身に絞り込まれたウエストが強調されている。レザーバッグや同じくスポンジで作られたハットも、引き裂かれた黒のストッキングで覆われている。

「リバース・スワッチング」ジャケットとハット

さらに壁沿いに配置されたキャビネットには、コルセットやアンダーウェアが並ぶ。細かいフィッティングを繰り返し、モデルの肌色や体型に合わせて構築されたこれらの展示品からは、ガリアーノによるフォルムへの探究心が垣間見える。また、モデルの肌色に合わせた人工毛とチュールを組み合わせたフェイクアンダーヘアの実物も見ることができる。

「メゾン マルジェラ アーティザナル 2024 エキシビション 東京」会場風景
コルセットの制作過程の様子も並ぶ
マーキン(フェイクアンダーヘア)

鏡張りの空間で1930年代パリの夜の世界に浸る

本展では、こうしたドレスやスーツの実物に加え、その創作過程にも焦点を当てる。展示室に並ぶ革の表紙の本は、ガリアーノによるスケッチが綴じられた「プロセスブック」。ページ下部には日付が記されており、下からめくっていくとルックがどのように発展し、完成したのか、時系列で辿ることができる。ルックごとにブックが作られているため、完成された衣服とスケッチの変遷を比較しながら鑑賞できるのも本展ならではの体験だ。

2024「アーティザナル」コレクションのプロセスブック
「メゾン マルジェラ アーティザナル 2024 エキシビション 東京」会場風景
「メゾン マルジェラ アーティザナル 2024 エキシビション 東京」会場風景

また2階では映像作品を上映。3階の展示室で鑑賞したドレスを実際にモデルが纏っている姿を見ることができる。こちらも壁や柱が鏡張りになっており、大画面に映し出される2024「アーティザナル」のショーで使われた映像とメイキング映像が空間を埋め尽くす。上映時間は30分ほどあるが、1930年代パリの夜の社交場のような、どこか退廃的であやしげなムードに包まれたショーの物語世界と、舞台裏のプロフェッショナルな仕事ぶりに時間を忘れて引き込まれる。

「メゾン マルジェラ アーティザナル 2024 エキシビション 東京」会場風景

独創性のある多様なテクニックとイマジネーションに満ちたストーリーテリング、そしてそれらを具現化する技術力を目の当たりにすることのできる本展。職人技と芸術性が融合したメゾン マルジェラのクリエーションを、貴重な展示品が揃うこの機会に体感してみてはいかがだろうか。

なお、本展の開催に合わせてメゾン マルジェラ オモテサンドウのウィンドウでも11月24日までルックの実物を展示。さらに、ドーバー ストリート マーケット ギンザ1階では、『BLEACH』などで知られるマンガ家・久保帯人とのコラボレーションによるディスプレイが同日まで展開されている。

後藤美波

後藤美波

「Tokyo Art Beat」編集部所属。ライター・編集者。