神奈川県立近代美術館 葉山 レストラン © 上野則宏
日常を少し離れ、小旅行気分で訪れたい海の近くの美術館。建築と海、そしてアートが溶け合うような空間で、特別な時間を過ごすことができます。この記事では、海や水景も楽しめる全国の美術館をピックアップ。この夏、水辺の空気を感じながら、涼やかな館内でアートと向き合うひとときを過ごしてみませんか?
茨城県五浦は、約120年前に岡倉天心と4人の画家たちが移り住み、近代日本画の確立をめざして研鑽を重ねた地として知られる。彼らが太平洋に面した崖の上に設立した五浦日本美術院研究所の跡地の背後の丘に、1997年に開館したのが茨城県天心記念五浦美術館だ。天心や横山大観をはじめとする五浦の作家たちの業績を顕彰するとともに、近現代の日本画を中心とした展覧会を開催している。
ガラス張りの展望ロビーは太平洋を一望できる館内の人気スポット。さらに遊歩道を歩いて向かう展望台からは長浜海岸、滄海広場からは小名浜を望み、美術鑑賞の後は天心にインスピレーションを与えた五浦の風景を堪能することができる。
茨城県天心記念五浦美術館
住所:茨城県北茨城市 大津町椿2083
アクセス:JR常磐線大津港駅よりタクシー5分
2007年に開館した横須賀美術館は、三方を県立観音崎公園の豊かな緑が囲み、目の前には東京湾が広がる、自然豊かな環境のなかに建つ。海外の美術、日本の近現代美術などの企画展を開催しているほか、本館と隣接する谷内六郎館では、横須賀・鴨居にアトリエを構えた谷内六郎の様々な作品を紹介している。
山本理顕が設計を手がけた建物は、ガラスの箱のなかに展示室と収蔵庫が配置され、丸窓から外の光が差し込む開放的な空間が、景観と一体化するように佇む。山側からも海側からもアクセスすることができ、無料で利用できる空間も多くあるため、散策とあわせて楽しみたい。
横須賀美術館
住所:神奈川県横須賀市鴨居4-1
アクセス:京急バス「ラビスタ横須賀観音崎テラス・横須賀美術館前」から徒歩2分、京浜急行線馬堀海岸駅からタクシーで約7分、浦賀駅から約10分
日本で最初の公立近代美術館として1951年に開館した神奈川県立近代美術館。その3番目の建物として、2003年にオープンしたのが葉山館だ。鎌倉別館とともに国内外の近現代美術の展覧会を行なっている。
美術館が位置するのは、目の前に一色海岸、背後には三ヶ岡山の緑が広がる絶好のロケーション。2つのL字型の建物に囲まれた中庭を中心に、葉山の海と山と調和する開放的で明るい空間が特徴だ。屋外にも複数の野外彫刻が設置されており、庭園を散策しながらアート鑑賞を楽しめる。
さらにおすすめなのが、美術館のレストラン「オランジュ・ブルー」。海を眺めながら、食事と鑑賞の余韻をゆったりと味わうことができる。
神奈川県立近代美術館 葉山
住所:神奈川県三浦郡葉山町一色2208-1
アクセス:JR横須賀線逗子駅または京浜急行電鉄逗子・葉山駅より京浜急行バス「三ヶ丘・神奈川県立近代美術館前」下車
現代美術作家・杉本博司が敷地全体を設計し、小田原の地に設立した「小田原文化財団 江之浦測候所」。人類とアートの起源に立ち返り、国内外への文化芸術の発信地となる場として構想され、かつて柑橘畑だった広大な土地に、杉本の作品を展示するギャラリー棟や、石舞台、光学硝子舞台、茶室、庭園、門、待合棟などが点在する。各建築物は日本建築の様々な工法や時代の特徴を取り入れて再現され、素材は近隣で得られるものを中心に構成。古代から近代までの建築遺構から蒐集された貴重な考古遺産も随所に用いられている。
相模湾を望む「光学硝子舞台」と「古代ローマ円形劇場写し観客席」、海に向かって持ち出しとなった展望スペースを擁する「夏至光遥拝100メートルギャラリー」、冬至の日に海から昇る太陽光が差す「冬至光遥拝隧道」など、小田原の自然を感じながら、旅をするようにめぐることができる本施設。見学は予約制で、午前、午後の2部制となっており、それぞれ3時間の見学時間が設けられている。訪れる際は公式サイトから予約を。
小田原文化財団 江之浦測候所
住所:神奈川県小田原市江之浦362-1
アクセス:JR東海道本線根府川駅より無料送迎バス、JR東海道本線真鶴駅よりタクシーで約10分
※無料送迎バスの座席には限りがあるため、利用希望者は見学予約時に往路の時刻を指定して要予約。復路のバスは予約不要
※ 駐車場有(駐車台数には限りがあるため、見学予約時に要指定)
1982年に開館したMOA美術館は、静岡県熱海市の観光地に建設され、日本美術を中心とした展覧会を開催するとともに、日本文化の継承と発展にも取り組んでいる。2016〜17年にかけて建物の改修工事を行い、ロビーエリアと展示スペースの設計は杉本博司と榊田倫之が主宰する「新素材研究所」が手がけた。
美術館のメインロビーからは、海に浮かぶ初島や伊豆大島が一望でき、房総半島から三浦半島、伊豆半島まで180度の大パノラマが堪能できる。本館は海抜270mの高台に位置し、敷地内には、150本の紅葉や季節の草花が植えられた庭園「茶の庭」も。展覧会だけでなく、広大な庭園で楽しむ四季折々の自然の景観も見どころのひとつだ。
MOA美術館
住所:静岡県熱海市桃山町26-2
アクセス:JR熱海駅よりバス「MOA美術館」下車、JR熱海駅よりタクシーで約5分
兵庫県立美術館は、阪神・淡路大震災からの「文化の復興」のシンボルとして、2002年にHAT神戸で開館した。建物の設計を手がけたのは安藤忠雄。前身である兵庫県立近代美術館時代から収集してきた約1万3000点におよぶコレクションを有し、様々な特別展やコレクション展を行うほか、入場無料のAndo Galleryでは、安藤の作品模型などを紹介している。
建物は吹き抜けのエントランスホールや、美術館のシンボルである円形テラス、展示室を囲むガラス張りの回廊など見どころ多数。大階段や海に張り出したように見える展望スペース「海のデッキ」など、海を一望できるスペースも複数設けられている。訪れる時間や季節によっても印象を変える美術館だ。
兵庫県立美術館
住所:兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1
アクセス:JR神戸線灘駅より約10分、阪神電車岩屋駅より約8分、阪急電車神戸線王子公園駅より約20分
海辺ではないが“水辺”の美術館として紹介したいのが島根県立美術館。宍戸湖畔に建ち、水との調和をテーマにした美術館だ。1999年の開館後、2021年から大規模改修を行って2022年に再オープン。《冨嶽三十六景》、『北斎漫画』をはじめとする葛飾北斎作品の膨大なコレクションで知られ、国内外のアーティストの作品を紹介する展覧会を開催している。
ゆるやかなカーブを描く天井が特徴的な建物は菊竹清訓による設計。風景と一体化するようなフォルムは、水面と大地をつなぐ「なぎさ」をイメージしているという。天井高の高いロビーからは目の前に美しい湖の景観が広がる。美術館から見える宍道湖の夕陽は「日本の夕陽百選」にも選出。公式サイトでは毎日の日没時間を掲示しているため、美しい夕景の見えるタイミングをあわせて訪れたい。
島根県立美術館
住所:島根県松江市袖師町1-5
アクセス:JR山陰本線松江駅より約15分、松江駅より松江市営バス「県立美術館前」下車
2005年に開館した香川県立東山魁夷せとうち美術館は、日本画家・東山魁夷の祖父が香川県の坂出市櫃石島出身で香川とゆかりが深いことから、遺族より270点ほどの版画作品を県が譲り受けたことをきっかけに整備された。美術館では、東山魁夷と香川県のつながりを紹介し、様々なテーマで所蔵作品を紹介しているほか、魁夷や魁夷ゆかりの日本画家の作品展示なども行っている。
海側に開けた1階ラウンジからは、大きな窓ガラスを通して瀬戸内海と瀬戸大橋を一望できる。海には魁夷の祖父が生まれ育った櫃石島も見えるほか、瀬戸大橋に用いられている「ライトグレー」の色は、魁夷が「景観を壊さない色を」と提案したものだという。場所と魁夷とのつながりを感じながら、季節や時間の移ろい、天候によって様々に変化する美しい風景を楽しむことができる。
香川県立東山魁夷せとうち美術館
住所:香川県坂出市沙弥島字南通224-13
アクセス:JR坂出駅北口から路線バス瀬居線「東山魁夷せとうち美術館」下車、瀬戸中央自動車道坂出北I.C.より約4km(本州方面より車でアクセスする場合)
「瀬戸内国際芸術祭」の会場でもある直島は、海の風景とアートを楽しむことのできる格好のスポットだ。島の中には、安藤忠雄建築による複数の施設をはじめ、多数のアートスポットやパブリックアートが点在する。
美術館とホテルが一体となったベネッセハウス ミュージアムは、安藤の設計により瀬戸内海を望む高台に建設。収蔵作品に加えて、直島の自然に向き合った作品や建築に触発された作品などのサイトスペシフィック・ワークが館内や屋外に設置されている。
また、「自然と人間との関係を考える場所」として設立した地中美術館は、自然の景観に配慮して建物の大部分が地下に埋設されている。地下でありながら自然光が降り注ぐ館内には、クロード・モネ、ジェームズ・タレル、ウォルター・デ・マリアの作品を恒久設置。カフェには屋外スペースもあり、瀬戸内の美しい風景を堪能できる。このほか李禹煥美術館や、杉本博司ギャラリー 時の回廊などでも自然環境と対話するようなアート鑑賞が楽しめる。さらに5月31日には安藤建築の新たな美術館、直島新美術館が開館した。
ベネッセハウス ミュージアム
住所: 香川県香川郡直島町琴弾地
アクセス:つつじ荘バス停より無料シャトルバス「ベネッセハウス ミュージアム下」下車
地中美術館
住所:香川県香川郡直島町3449-1
アクセス:つつじ荘バス停より無料シャトルバス「地中美術館」下車
2024年に「世界で最も美しい美術館」としてベルサイユ賞を受賞したことで知られる下瀬美術館。広島市に本社を置く建築資材の総合メーカー、丸井産業株式会社の代表取締役・下瀬ゆみ子が先代の創業者・下瀬福衛と下瀬静子から受け継ぎながら、半世紀をかけて形成してきたコレクション作品約500点を所蔵している。雛人形や雛道具から日本近代・西洋の絵画まで多様な作品に触れることができる。
水盤の上に並ぶ8つの可動展示室は、建築家の坂茂が瀬戸内海の島々から着想したもの。色とりどりのカラーガラスに覆われ、広島の造船技術を活用して水の浮力で動かせる仕組みを持つ。海岸線と平行に並び建つエントランス棟、企画展示棟、管理棟はすべての外壁が「ミラーガラス・スクリーン」で一体化され、周辺の風景が映り込む。企画展示棟の外にある望洋テラスでは、宮島、阿多田島、江田島といった瀬戸内の多島美が眼前に広がる。
下瀬美術館
住所:広島県大竹市晴海2丁目10-50
アクセス:JR山陽本線玖波駅または大竹駅よりこいこいバス「ゆめタウン」下車徒歩5分
市民による草の根運動に始まり1980年に開館した尾道市立美術館は、2003年に安藤忠雄の設計による改修工事を終え、千光寺公園内にリニューアルオープンした。洋画家・小林和作ら尾道にゆかりのある作家の作品のほか、日本画や彫刻、版画など幅広い作品をコレクションしている。
美術館のある千光寺公園は、「日本さくら名所100選」に選ばれるなど桜の名所としても知られ、しまなみ海道と中国横断自動車道の要衝に位置する。2階ロビーのガラス越しに広がる尾道水道や瀬戸内の風景も見どころのひとつだ。9月9日まで、空調設備の更新と展覧会準備のため休館中。
尾道市立美術館
住所:広島県尾道市西土堂町17-19
アクセス:JR山陽本線尾道駅よりおのみちバス「長江口」下車、千光寺山ロープウェイ「山麓駅」よりロープウェイ「千光寺公園駅」下車徒歩4分。JR尾道駅、JR山陽新幹線新尾道駅よりタクシー約15分
「呼吸する美術館」をコンセプトに2005年4月に開館した長崎県美術館。東洋有数の規模を誇るスペイン美術コレクションを持つことで知られる。「須磨コレクション」と呼ばれる個人コレクターの旧蔵品を核とし、パブロ・ピカソ、ジュアン・ミロ、サルバドール・ダリなど20世紀美術の巨匠たちの作品も収蔵している。また長崎ゆかりの作品の収集にも力を入れている。
美術館は「長崎水辺の森公園」に隣接し、建物は隈研吾がデザイン。水と運河、自然とアートの融合を目指してデザインされ、屋上は芝などで緑化するなど公園の緑との連続性を持つ。運河を挟むギャラリー棟と美術館棟で構成されており、2つの棟を結ぶ運河上の空中回廊「橋の回廊」からは、運河や長崎の港を見渡すことができる。水の風景を眺めながら食事を楽しめるカフェも人気のスポットだ。
長崎県美術館
住所:長崎県長崎市出島町2-1
アクセス:JR長崎駅より徒歩15分、路面電車1号系統「出島」より徒歩3分、5号系統「メディカルセンター」徒歩2分
50歳で奄美に移り住み、亜熱帯の動植物を描き、日本画の新境地を拓いた田中一村。その作品を常設展示しているのが、田中一村記念美術館だ。東京や千葉に住んでいた時代の作品や、奄美で制作した作品など約80点を通して、一村の画業に触れることができる(年に4回展示替えを実施)。展示室は、地元の素材を用いて奄美の高倉をイメージしたデザインになっている。
美術館は奄美の歴史や文化を学ぶことのできる観光拠点施設「鹿児島県奄美パーク」の中に建つ。パーク内の展望台は360°のパノラマで自然あふれるパークを見渡すことができるほか、天気が良いときは奄美群島の離島・喜界島が見える。
田中一村記念美術館
住所:鹿児島県奄美市笠利町節田1834
アクセス:奄美空港よりしまバス「奄美パーク」下車してすぐ
南城美術館は、沖縄本島南部・南城市知念にある日本最南端の美術館。琉球王国の国家的な祭事が行われていた聖地で、世界文化遺産に登録されている斎場御嶽にほど近く、海を見渡すロケーションが特徴のひとつ。「美は生活の中、暮らしの中に存在する」というコンセプトのもと、「日本初の情景式美術館」を掲げる。
常設展示室では、伝統的な日本家屋にスペースに国内外のアーティストによる50点以上の作品を展示。ここには太平洋を一望するオーシャンビューのテラスも設置されているほか、約5000平米の伴山アート広場では、亜熱帯の草花や木々、生き物の存在を感じながら大型作品の展示や、演奏会、アートイベントなどの催しを楽しむことができる。
南城美術館
住所:沖縄県南城市知念安座真865
アクセス:那覇空港よりタクシー45分