泉屋博古館 内観
京都 東山・鹿ヶ谷の泉屋博古館が、4月26日にリニューアルオープンした。豊かな景観やモダニズム建築の魅力はそのままに、約1年間の改修工事を経ての開館だ。
あわせてこけら落としの展覧会もスタート。青銅器館では「ブロンズギャラリー 中国青銅器の時代」展が8月17日まで、企画展示室ではリニューアル記念名品展の1期として「リニューアル記念名品展Ⅰ 帰ってきた泉屋博古館 いにしえの至宝たち」が6月8日まで開催されている。
住友コレクションの中核であり、泉屋博古館の象徴ともいえるのが、中国古代の青銅器だろう。
約半世紀ぶりのリニューアルとなった1号館・青銅器館は、1970年に開館した当時の姿へと近づけられたいっぽう、当時から使い続けられていたという展示ケースや内装は一新。青銅器の複雑な文様や造形など、超絶技巧の数々がより美しく鑑賞しやすい空間に生まれ変わっている。
東山の麓に位置し、高低差のある地形に合わせて設計された館内は、4つの展示室が螺旋状に連なった構造だ。吹き抜けが印象的な階段ホールを経て、「ブロンズギャラリー 中国青銅器の時代」展の最初の展示室であるギャラリー1「住友コレクション 名品大集合」へ進むと、堂々たる存在感を放つ《夔神鼓(きじんこ)》 が鑑賞者を出迎える。
続くギャラリー2は「種類と用途」、ギャラリー3は「文様・モチーフの謎」、そしてギャラリー4には「東アジアへの広がり」と、テーマに沿って青銅器の優品が展示されている。いずれにも丁寧な解説文がそえられ、展示をたどりながら青銅器の基礎的な知識が深まっていく構成だ。
また、展示ケースが整然と配置され、360度様々な角度から、青銅器一つひとつをじっくり鑑賞できるよう配慮されていると感じた。世界有数の青銅器コレクションを誇る同館ならでは、だろう。
ギャラリー4には、明かり取りのように小さな窓が設けられ、出口からロビー空間へとつながる動線のスペースには、車椅子用のエレベーターと合わせて、ほっとひと息つくのにぴったりの「眺めのいい部屋」を新設。また以前から休憩室として使われてきた空間は、新たに「饕餮(とうてつ)の間」と名づけられた。
青銅器館は元々、住友家の文化迎賓施設として竣工していることから、饕餮の間や、広々としたロビー、青銅器館と企画展示室をつなぐ渡り廊下からも、東山を借景に作庭された美しい中庭を楽しめる。
かつての賓客らも、住友家の優美なコレクションをここで楽しみつつ、ゆったりとした時間を過ごしたのでは、と、館の歴史に思いを馳せたくなるだろう。
1986年に竣工した2号館・企画展示室は、収蔵庫だったスペースを展示室にリニューアルし、2部屋に拡張。床置きの展示ケースもあわせて一新したという。
今回のリニューアル記念名品展「帰ってきた泉屋博古館 いにしえの至宝たち」では、住友コレクションの中でも、特に古代から近世、江戸時代に至るまでの日本・中国・朝鮮の古美術から、絵画、書跡、茶道具や文房具、仏教美術までを網羅的に厳選して展示。
重要文化財に指定されている、徐九方《水月観音像》や、伊藤若冲《海棠目白図》 など、長らく名品として知られてきたものから、開館後60年余りのあいだに研究が進み、徐々に価値が認められるようになったもの、今後注目を集めるのでは、というものまで、非常に幅広い。
展覧会を5つのキーワード「神仏のかたち–光の国から」「山は呼んでいる」「花と鳥–生きとし生けるもの」「つどいの悦楽、語らいの至福」、そして「小さきものたち」で構成した意図について、企画担当の実方葉子学芸部長は、「個人の好みで収集し、日々大切に愛でて楽しんできた品々ばかり、というコレクションの特性をふまえてのこと」と説明。
美術史に沿った明確な章立てや順路なども設定せず、「鑑賞者それぞれが気になった品々をじっくりと鑑賞し、楽しんでもらいたい」と語った。
館を訪れた際は、改修期間中に力を入れて準備した、というミュージアムグッズの数々にも注目したい。
同館を代表する青銅器のひとつ、《虎卣》があしらわれたトートバッグや、オリジナルデザインの測量野帳、ユニークすぎるグッズの数々を制作している「フェリシモ ミュージアム部」とコラボレーションしたアイテムなどが多数登場。商品開発の段階から同館の学芸員が関わり、新たに発売されたものが多いとのことなので、京都旅や鑑賞体験の記憶とともに、日常に取り入れてみたい。
また、今回のリニューアルにあわせて、新たに始まった企画が「泉屋八景」だ。
館の建築の魅力を改めて発信しようと、学芸員それぞれがおすすめしたい8つの館内の風景を挙げ、手のひらサイズのカードに。該当する各所に置かれ、集めて収納するケースも含め無料で配布されている。
今後、学芸員とともに館内を巡る「ふらっと泉屋八景めぐり 学芸員ガイドツアー」も定期的に開催予定だ。
展覧会を楽しむのはもちろんだが、館内の様々なしつらえや、そこから見える風景もまた、館を訪れたからこそ気づける、唯一無二の魅力だ。今回のリニューアルは、泉屋博古館を初めて訪れる方も、何度も訪れたことのある方も、きっと新たな発見があるだろう。自然豊かな京都東山・鹿ケ谷へ、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。
Naomi
Naomi