大竹伸朗 網膜屋/記憶濾過小屋 2014( ヨコハマトリエンナーレ2014での展示風景) © Shinro Ohtake Courtesy of Take Ninagawa, Tokyo Photo by Kei Okano
香川県の丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で日本を代表する現代美術家・大竹伸朗の大規模個展「大竹伸朗展 網膜」が開催される。会期は8月1日から11月24日まで。
大竹伸朗は1955年東京生まれ。1980年代初めにデビューし、絵画や彫刻、コラージュ、インスタレーション、建造物など様々なかたちで作品を発表。1988年に宇和島市に活動の拠点を移し、35年にわたって同地で制作を続けている。ドクメンタ13(2012)やヴェネチア・ビエンナーレ(2013)にも参加し、国内外で高い評価を得てきた。近年では、東京国立近代美術館ほかを巡回した回顧展「大竹伸朗展」(2022〜23)が高く評価され、第65回毎日芸術賞を受賞している。
本展は、大竹が長年取り組んできた代表的シリーズ〈網膜〉を軸に、新作・未発表作を中心とした大規模な構成。同館での個展は、2013年の「大竹伸朗展 ニューニュー」展以来、12年ぶりとなる。
本展の中心となる〈網膜〉シリーズは、1988年に制作の拠点を移した宇和島のアトリエで着想され、1990年代初頭まで集中的に制作されたあとも、ほかのシリーズへの展開を伴いながら制作が続けられてきた。シリーズ名にもなっている「網膜」は、本来は眼球の最奥にある、光を受け取り視神経を通して脳に情報を伝達する薄い膜のこと。大竹はこの言葉を、廃棄された露光テスト用のポラロイド・フィルムに残された光の痕跡を引き伸ばし、その上に透明なウレタン樹脂を塗布する独自の技法による作品に名付けた。
画面上で分離している「写真像の色面」と「透明の塗膜層」のふたつが、鑑賞者の網膜を通して脳内で統合され、「時間」や「記憶」といった目に見えない要素を内包する新たな像として立ち現れる。現在進行中の新作では、こうした構造がさらに更新され、長年放置されたことで変質した感光剤が刻む時間が、幾層にも重ねられた塗膜によって包み込まれ、見る者の記憶を揺さぶる情景として浮かび上がる。
展示では、現在制作中の新作〈網膜〉12点に加え、音と光を取り入れた高さ約3メートルの大型レリーフ作品や、1990年代初頭に制作されながらこれまで公開されなかった〈網膜〉作品も披露される。
また、記憶と視覚の装置として構想されたインスタレーション《網膜屋/記憶濾過小屋》(2014)を、構想当初のスケールで再構成。さらに、2010年代半ばから続くグワッシュの連作〈網膜景〉や、油彩のシリーズ〈網膜/境〉など、「時間」と「記憶」を手がかりに〈網膜〉と共鳴し続ける作品群も出品される。
「眼」「フィルム」「写真」といった視覚の装置から発想され、そこから〈網膜〉へとつながる大竹の膨大な作品群は、いまなお拡張を続けている。本展は、そうした〈網膜〉世界の全貌を体感できるまたとない機会となるだろう。