会場風景より、横尾忠則《未完の足場》(2025)
横尾忠則の個展「横尾忠則 未完の自画像・私への旅」が、東京のグッチ銀座ギャラリーにて開催される。会期は4月23日〜8月24日(予約優先制)。
本展は、1970年の大阪万博で披露された伝説的インスタレーション《未完の足場》の再構築を中心に、「未完」と「旅」をキーワードに展開される。キュレーションは美術評論家の南雄介が担当。
本展の目玉とも言える《未完の足場》は、横尾が1970年の大阪万博のせんい館の建築デザインを担当した際、建設現場に足場が組まれていた光景から着想を得た作品。
当時、横尾は工事中の現場を見学したときに建設中のドームの周囲に工事用の足場が組まれていたのを目にし、「なんとしても、この足場を残すことで、建築のプロセスを大きな表現とできないか」と直感的に考えた。そこから多くの反対を押し切って、前代未聞の「未完」のパヴィリオンとしてせんい館を実現させ、大きな話題を呼んだ。足場そのものは真紅に塗装され、建築の過程を提示したことで、横尾は芸術における「未完」の創造性を視覚化した。
本展では、今回のために開放される屋上スペースに赤い足場が55年ぶりに再現され、観る者を横尾の思考の原点へと誘う。
また、初公開となる自画像や家族の肖像など最新作6点を含めた約30点の作品が展示される。
ひとつの柱は「旅」だ。横尾は「日本原景旅行」(1972〜74)や「温泉主義」(2005〜07)など、日本各地を巡る旅を通して作品を生み出してきた。なかでも有名な「Y字路」シリーズは、故郷・西脇での取材から始まり、各地に展開していった経緯を持つ。旅は横尾にとって、他者との関係性を見つめ、自らを探求する過程であると同時に、宇宙的なヴィジョンや死後の世界、海中といった異界へのまなざしとも地続きである。
1981年に「画家宣言」を行って以降、横尾はジャンルにとらわれない表現を続けてきた。形式を限定せず、無限に広がる創作の可能性を模索する姿勢は、「未完」であることに価値を見出す本展の主題とも響き合う。
色鮮やかな筆致で描かれた最新の自画像シリーズには、夫婦の姿やふたりが一体となったような像も含まれ、自己と他者との関係性に迫るまなざしが見て取れる。
なお、横尾忠則は東京の世田谷美術館にて個展「横尾忠則 連画の河」を同時期に開催(会期:4月26日〜6月22日)。多面的、多層的に広がる横尾芸術に触れる絶好の機会だ。