公開日:2025年1月18日

谷口吉生建築を貫く巨大構造物が出現。「玉山拓郎:FLOOR」(豊田市美術館)レポート

2階にわたる5つの展示室にひとつのインスタレーションを設置した挑戦的な試みは必見。会期は1月18日〜5月18日。

会場風景

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歴代最年少での個展はチャレンジングな内容に

愛知県の豊田市美術館で、1月18日〜5月18日に「玉山拓郎:FLOOR」が開催される。

玉山拓郎は1990年岐阜県多治見市生まれ。立体的な造形や光、映像、音を組み合わせたインスタレーションで、現在もっとも注目を集める気鋭のアーティストだ。

会場風景

本展は、同館にとってかつてないチャレンジングな展覧会。驚くべきことに、2〜3階にわたる5つの展示室を使い、たったひとつのインスタレーション作品が展示される。目の前に現れたのは美術館に貫入するような超巨大な構造物。絵画や立体作品が空間に展示されるのではなく、この構造物による空間の変容そのものが作品となっている。

豊田市美術館といえば、昨年死去した美術館建築の名手・谷口吉生による建築として名高い。同館の高橋秀治館長「美しい建築に作家がどう対決し、解釈したのかを見ることができる。建物との格闘と建築家へのリスペクトの両方、そして光がキーワード」とコメントした。

会場風景

現在34歳の玉山は、豊田市美術館での個展を行う作家としては歴代最年少。企画を担当する同館学芸員の鈴木俊晴は学生時代から玉山の活動を見てきたといい、「若手作家を紹介し、さらに大きな仕事へとつながるような活躍の機会を作ることは地方の公立館の役割」だと本展の意義を語る。加えて「作品数や情報量の多さとは違うところで勝負できる何かがあるのではないか」との言葉からは、本展が一般的な展覧会の枠組みとは一線を画すものであると感じられた。

左から、玉山拓郎、鈴木俊晴(豊田市美術館学芸員)

移りゆく時間と光の変化

構造物に加えてユニークなのは、本展では人工照明が使われていないということ。美術館建築がもともと備えている天井や、構造物のあいだなどから入り込む自然光が光源だ。そのため、時間や季節の変化によって展示空間の様子が変わる。本展での構造物は、そうした一期一会の状態を際立たせる効果を持っている。実際にプレスツアーが始まった15時には柔らかな光がまわっていた展示室は、夕暮れとともに一部が温かな色に染まり、閉館の17時半にはかなり暗くなるなど、大きく表情を変えていった。また展示室に流れているほのかなノイズのような音は、10日間にわたる設営中の音を録音し、それを会期中の長さにまで引き延ばしたもの。この音も、一度として同じものが鳴らないようになっている。

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構造物の表面は前面がカーペットで覆われている。展覧会タイトルにもなっているフロア=床が本来の床から離れて空間を占めるため、展示を見たり写真を撮影する場所によっては空間の天地が入れ替わったり攪乱されるような感覚をもたらす。

本作に用いられたカーペットはサンゲツの既製品で、その量は約880平米におよぶ。「自然と光の色を受け入れてくれるような色を選んだ」(玉山)という、茶色と紫の中間のような深い色合いが印象的だ。作家の意図が介入しないある種の「ファンドオブジェ」としてカーペットを用いたいと考えたため、あえて特注の色などを作るのではなく既成の商品から選んだという。

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本展は決まった順路がなく、鑑賞者は思い思いに展示室を歩くことができる。時に歩行を妨げるように空間を横切る構造物の下を潜ったり、思いもよらないところに突き出ている構造物を見つけて驚いたり、壁と天井のあいだから注がれる光に目を細めたり。玉山による操作によって感覚が呼び起こされ、普段とは違ったかたちで美術館建築や空間へ注意を向けることになるのが面白い。

会場風景

美術館の空間をシームレスでひとつの大きな空間ととらえる

玉山に、本展に際して豊田市美術館の建築にどのような印象を持ったかと聞くと、岐阜出身で愛知県立芸術大学に通ったため「昔から親しんできた場所」だったという。

「ここにあまり来たことがない人にとっては、各展示室がシーケンスにわけられているように感じられ、自分がいまいる場所が空間全体におけるどこなのか想像しづらいかもしれません。でも僕にとっては、この建築全体が自然とひとつの大きな空間としてとらえられる。シームレスにつながっていることが、この美術館における谷口建築の面白いところだと思います。そうした建築に対し、計算的に利用しようというよりは、素直な態度でのぞみました。なので今回はプランを立てるのに時間がかからなくて、鈴木さんからお声がけいただいてから1週間ほどでプランを提出できました。もちろんそのあとは実現させるまでに時間がかかっていますが」(玉山)

鈴木も、「展示室ごとに物語が進んでいくような構造が展覧会作りのセオリーですが、今回玉山さんとは谷口建築を違うあり方へとずらしたかった」と言う。

3階にある通路は、いつもなら窓ガラスの外に広がる豊田市の美しい景色を眺めることができるスポット。しかし本展では作家が窓にシートを貼り、シンプルな光の面として立ち現れる。

また鈴木がひとつのハイライトだと言う展示室では、構造物が梁状に空間を横断。天井から降りてくる光の効果と相まって異空間のような雰囲気だ。

会場風景
会場風景

普段の身体感覚や天地左右、スケールが不確かなものへと位相を変え、宙吊りにされるなかで、いま自分は何を「体験」しているのだろうか……と、心地よい問いに満たされる。写真などでは決して掴めない展覧会の全貌は、ぜひ足を運んで体感してほしい。

夕暮れに染まる展示室
会場風景
17時すぎ、暗くなってきた展示室
構造物は屋外にも続いているので、お見逃しなく

【同時期開催】 豊田市美術館では、1月18日〜5月18日に「髙橋節郎館リニューアルオープン記念 髙橋節郎展-我逢人 われ人に逢うなり-」が開催されるほか、2月16日まで「しないでおく、こと。― 芸術と生のアナキズム」も開催中。こちらのレポートやインタビューも合わせてご覧ください。

福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集長。『ROCKIN'ON JAPAN』や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より「Tokyo Art Beat」編集部で勤務。2024年5月より現職。