公開日:2025年2月28日

横浜の街なかが美術館に? 車窓から鑑賞する新感覚のアート体験「THE DRIVE-THRU MUSEUM」レポート

アマンダ・パーラー、Wade and Leta、松村咲希が日産エクストレイルとコラボ。津田健次郎によるオーディオガイドの案内で作品を巡る(撮影:鈴木渉 [*]をのぞく)

走行中のクルマのなかからアートを鑑賞するという一風変わったイベント「THE DRIVE-THRU MUSEUM」が、2月21日と22日に横浜で開催された。

「THE DRIVE-THRU MUSEUM」は、2023年のグッドデザイン賞を受賞するなど、デザイン性に優れた上質なクルマとして評価されている日産のSUV「エクストレイル」と、多くのアート作品が点在する横浜市のコラボレーションによるもの。参加者はエクストレイルに乗って決められたルートを走行し、横浜の街なかにあるパブリックアートや、国内外3組のアーティストによって本イベントのために制作された作品を鑑賞する。アーティストの選定は、スタートバーン株式会社の協力のもとで行われた。

ここでは、前日の2月20日に本イベントを体験した模様をレポートする。

津田健次郎によるオーディオガイドの案内で出発

出発地は横浜駅にほど近い日産グローバル本社。エクストレイルに乗り込んでいざ出発。ドライバーさんの運転でしばらく走ると車内のスピーカーからオーディオガイドが流れ出す。声の主は、声優・俳優の津田健次郎。「THE DRIVE-THRU MUSEUM」では、津田によるオーディオガイドの案内でアート作品を巡っていく。「それでは、私、津田健次郎とともに特別なアート体験へ出発しましょう」。ナッパレザーが張られた上質感のある車内空間に津田の落ち着いた声がよく似合う。

この日は天気にも恵まれ、贅沢なドライブ気分で窓の外を眺めていると、オーディオガイドが最初の作品が近づいていることを教えてくれる。

車窓からヴェナンツォ・クロチェッティ《平和の若い騎手》を見る

見えてきたのは、2月に全館リニューアルオープンしたばかりの横浜美術館の敷地内に立つブロンズ像《平和の若い騎手》だ。イタリアの彫刻家ヴェナンツォ・クロチェッティによって世界平和への祈りを込めて作られた作品で、10年にわたってこの地に立っている像だが、車窓越しに少し離れたところからあらためて見てみると、馬に乗った騎手が街ゆく人々を見守ってくれているようにも見える。

ヴェナンツォ・クロチェッティ 平和の若い騎手(*)

芝生の上でくつろぐ「遥か彼方からの訪問者」

つづいてクルマは赤レンガ倉庫近くの新港中央広場へ。窓を開けて海風を感じていると、なにやら芝生の上に巨人のような大きな人型の立体が寝そべっている。車内のスピーカーからは口笛の音が聞こえてきた。

新港中央広場に設置されたアマンダ・パーラー《Fantastic Planet》

これはアマンダ・パーラーによる作品《Fantastic Planet》。オーストラリア・タスマニアを拠点に活動するパーラーは、人間と自然界の関係をテーマに制作を続けている。3年連続参加した「ムーンアートナイト下北沢」での巨大なウサギのインスタレーションも記憶に新しい。

アマンダ・パーラー Fantastic Planet H3.65m×W15.9m×D6.2m

《Fantastic Planet》は、カルト的人気を誇るフランスのSFアニメーション映画『ファンタスティック・プラネット』にインスピレーションを受け、「遥か彼方からの訪問者」というテーマで制作しているパーラーの代表作だ。今回は、エクストレイルの静粛性能とコラボレーションし、アートとサウンドを融合させた新たな作品としてアップデートされた。

見慣れた広場に突如現れた横幅16m近くの異質な存在ながら、違和感を感じさせないほどくつろいでいるように見える“訪問者”。走行中のノイズが抑制された静かで上質な車内では、リラックスして寝転ぶ作品の口笛がよく聞こえる。

アマンダ・パーラー Fantastic Planet

横浜スタジアム前に出現したポップな“標識”

海沿いを離れ、クルマは次の目的地である横浜スタジアムに向かう。スタジアム前に作品を制作したのは、ニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動するクリエイティブスタジオ、Wade and Leta。「Music To Your Eyes」をモットーに活動するかれらは、エクストレイルに搭載されている電動4輪制御技術「e-4ORCE」に着目し、サイズやかたちの異なるプレートを組み合わせたポップな立体作品《Mixed Signals》を本イベントのために制作した。

横浜スタジアムの前に立つWade and Leta《Mixed Signals》
Wade and Leta Mixed Signals 左から:3m×1.85m 、3m×2.4m、3m×1.6m

この作品は日本の道路標識のデザインにインスピレーションを受けて作られたという。一見風景に溶け込んでいるかのようだが、車窓から外を眺めながら異物感に気がつく体験が面白い。作品の前を通過する時間はわずかだが、揺れを抑えた安定した走りによって細部に注目しながらじっくりと鑑賞することができる。

Wade and Leta Mixed Signals 左から:3m×1.85m 、3m×2.4m、3m×1.6m

さらに街なかを走行していると、次のパブリックアートをオーディオガイドが案内してくれる。

関内ホールにあるふたつの彫刻作品《平和I》《平和II》は、建物の正面入り口と裏口に設置されている。ペアで作られた作品で、ハンガリー出身の彫刻家マルタ・パンによるもの。こちらも平和への想いが込められており、動きのある抽象的な造形の赤色が目をひく。

マルタ・パン 平和I(*)
マルタ・パン 平和II(*)

駐車場を変容させるクルマと絵画が一体化した作品

あっという間にアート体験は最後のスポットへ。路地を進んでいくと、カラフルに彩られた一角が姿を現した。そのままクルマで中に入っていく。パラカ横浜市太田町第一駐車場に作られた松村咲希の《The CARnvas》は、クルマで中に入ることで完成するという作品だ。

パラカ横浜市太田町第一駐車場の松村咲希《The CARnvas》
停車すると、車内のインテリジェント アラウンドビューモニターの画面にも作品の中に入った様子が映し出された

松村は、京都を拠点に、アクリルペイント、シルクスクリーンなどによる複雑なレイヤーと立体感を持つ絵画作品を発表しているアーティスト。今回は既存の作品である《Fire Festival》をベースに、エクストレイルのエクステリアと絵画を掛け合わせた作品を制作した。《Fire Festival》の力強さと優雅さが同居する表現が、エクストレイルが掲げるデザインテーマ「タフギアと洗練の融合」と通じることからコラボレーションが実現したという。メタリックなペイントのストロークやドット、エクストレイルの車体の色であるシェルブロンドカラーなど、様々な色面がコラージュされ、駐車場という日常の風景をアート作品に変容させた。

そして《The CARnvas》の真ん中に停められたクルマを降り、1時間ほどの「THE DRIVE-THRU MUSEUM」のアート体験は終了。最後に、出発地までの帰路を自分で運転して試乗体験を行った。実際にハンドルを握ってみると、揺れが少なく、思い通りにカーブを曲がれる気持ち良さなど、e-4ORCEによる滑らかな走りや、クルマの静粛性といった作品を鑑賞しながら後部座席で感じたエクストレイルの機能や上質な車内空間を運転席でもあらためて実感することができた。

松村咲希 The CARnvas  20.6m×横14.3m 部分

クルマの快適な乗り心地に身を委ねながら、流れる景色のなかで作品を追いかけるように視線を動かす。ふだんは何気なく通り過ぎていたパブリックアートにも新たな発見があり、能動的な鑑賞を引き出されるユニークな体験だった。街には、まだ出会えていないアートが車窓の向こうに広がっているのかもしれない。

「THE DRIVE-THRU MUSEUM」についての詳細はこちらからご確認ください。

特設サイト:https://www2.nissan.co.jp/SP/X-TRAIL/THE-DRIVE-THRU-MUSEUM/

後藤美波

後藤美波

「Tokyo Art Beat」編集部所属。ライター・編集者。