左から、ティエリー・ノワール《Our goal is to put an end to the disorder》(2025)(香港で展示)、《The start toward a rapid solution》(2025)(東京で展示)
PhillipsXは、フランス人アーティスト、ティエリー・ノワールによる展覧会「ラッシュアワー」を東京と香港で同時開催する。会期は7月9日〜7月31日。
フィリップス・オークションのグローバル・プライベートセールス部門が運営する展示販売プラットフォームである「PhillipsX」。ティエリー・ノワール(1958〜)は、フランス・リヨンに生まれ、ベルリンに移住後、1980年代から西ベルリンで政治的な意識を持って制作を開始した。抑圧的な状況下で創作を続け、1984年にベルリンの壁に最初に絵を描いたアーティストとして知られている。作家の代名詞ともいえる、細長い横顔、平坦な顔、単純化されたフォルムといったモチーフは抵抗と忍耐の象徴となった。現在まで活動を続けながら、独自の視覚表現を拡張し続けている。
東京・六本木のフィリップス東京と、香港のフィリップス・オークション アジア本社で同時開催される本展では、1980年代初頭の初期作品から、現在の大型で色鮮やかな作品までを展示し、約40年におよぶ作家の軌跡をたどる。これまでヨーロッパの外では公開されていなかった1980年代初頭の作品群と、本展のために制作された新作絵画やサイトスペシフィックな壁画作品が、過去と現在の対話を生み出す展示空間となる。
ノワールは本展に際し、次のようにコメントを寄せている。
「『ラッシュアワー』は、“今この瞬間”の強度、つまり絶え間なく動き続ける状態で生きるということについての展覧会です。そしてその強度は、かつてベルリンの壁に絵を描いていたときに感じた切迫感と繋がっています。何年もの時を経ても、あの時のエネルギーは確かに今も自分の中に存在しています。ただ、そのかたちが変わっただけなのです」(プレスリリースより)
東京会場では、ノワールが会場で描き上げた床から天井までの大規模な壁画と、「ラッシュアワー」シリーズからの新作絵画によるインスタレーションが登場。過去と現在がダイナミックに衝突する空間として構想され、東京という現代都市のスピード感や絶え間ない動きを体現するという。あわせて、1980年代にベルリンの壁と同時期に制作された小型なドローイングも並び、都市の喧騒と静謐の対比が表現される。作家本人も来日し、初日17:00〜19:00に開催されるオープニングレセプションに出席する予定だ。
香港会場では、「ラッシュアワー」展の第2章として、1980年代作品と現在の実践との連続性に焦点を当てた展示が展開される。アイコニックな「顔」のモチーフや象徴的な構図が描かれた初期の小作品が、2025年の大作と初めて並んで紹介され、ここでも過去と現在の対話を創出する。両者の対比を通じて、ノワール作品に繰り返し現れるモチーフが時代とともにどのように発展し、同時にそれらがいかに作家の視覚的言語に根差しているかを浮かび上がらせる。7月18日17:00〜19:00(香港時間)には、作家本人によるライブペインティングや、ノワールのインスピレーション、創作プロセスなどに迫るイベントも開催予定だ。
初期から2025年の新作までを紹介する本展は、ノワールにとってアジア最大規模のプロジェクトとなる。約40年のキャリアを経てもなお、アートシーンで存在感を放ち続ける作家のエネルギーに触れられる貴重な機会となりそうだ。