公開日:2025年11月26日

若き坂本龍一、そして40年前の東京が蘇る。『Tokyo Melody Ryuichi Sakamoto』4Kレストア版が2026年1月公開

伝説的ドキュメンタリーが40年の時を経て4Kレストア版として公開される。

1984年、たった1週間で撮影された伝説的ドキュメンタリー『Tokyo Melody Ryuichi Sakamoto』が、40年の時を経て4Kレストア版として蘇る。公開は2026年1月16日。

本作は、坂本が4枚目のソロアルバム『音楽図鑑』を制作し始めた時期に、写真家・映画監督のエリザベス・レナードとフランス国立視聴覚研究所(INA)が制作したものだ。

「非日常が日常化する」1980年代東京の肖像

本作の核となるのは、坂本龍一が語る東京の音。坂本は劇中でこう語る。

「音楽というのは非日常的な時間のために作られたと思うんだけども、現在の日本のように至る所に音楽があるということは、裏を返せば“非日常的な時間が日常的に続いている”というふうに言えるんじゃないかな」

渋谷のスクランブル交差点、新宿アルタ前、竹の子族で賑わう原宿──80年代の東京に鳴り響く雑多なリズムの中で、坂本はピアノやシンセサイザーを前に“変わりゆく文化と社会”を冷静に見つめる。その眼差しは、都市のノイズも、クラブミュージックも、環境音も、すべて等価な素材として吸収していく。

『音楽図鑑』を制作するオンキョー・ハウスのスタジオでは、Fairlight CMIを用いてサンプルを視覚化しながら音を組み立てていく姿が収められている。演奏シーンでは、映画『戦場のメリークリスマス』のテーマ「Merry Christmas Mr. Lawrence」を奏でる場面、さらには当時の妻・矢野顕子との自宅グランドピアノでの連弾「東風」も登場する。

こうした「都市」「家庭」「スタジオ」が自然につながる音楽的構造こそ、坂本が当時から持っていた総合的な芸術観の表れといえる。

世界を駆け巡った“最初の坂本ドキュメンタリー”

完成した1985年、同作はロッテルダム映画祭で絶賛を浴び、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の「ニュー・ディレクターズ、ニュー・フィルムズ」では唯一のソールドアウトを記録。日本では第1回東京国際映画祭で上映されたのみだった。その後、VHSやDVDも入手困難となり、長らく幻の作品として語られてきた。しかし近年、倉庫で眠っていた16mmフィルムが発見され、修復作業を経てついにデジタル化を果たした。

本作を今見る価値は、80年代東京の記録だけではない。坂本龍一は、クラシック、電子音楽、ポップ、映画音楽、パフォーマンス、環境音、デザイン──あらゆる感覚領域を横断して創作してきた稀有な存在である。ニューヨークのアーティストからも、フランスのクリエイターからも、そして世界中から尊敬される理由は、音楽家でありながら、常に“総合芸術”として世界を捉えていたからだ。

『Tokyo Melody』は、そんな坂本の“思考そのもの”を捉えた作品であり、彼が都市や社会をどのように読み取り、どんな未来を想像していたのかが伝わってくる。

『Tokyo Melody Ryuichi Sakamoto』4K レストア版』
監督:エリザベス・レナード
出演:坂本⿓⼀、⽮野顕⼦、細野晴⾂、⾼橋幸宏
撮影:ジャック・パメール
編集:鈴⽊マキコ
⾳楽:坂本⿓⼀
録⾳:ジャン・クロード・ブリッソン
製作:ミュリエル・ローズ
制作会社:INA、KAB America Inc.、KAB Inc. 1985 年/62 分/フランス、⽇本/⽇本語、フランス語、英語
配給:エイベックス・フィルムレーベルズ
©Elizabeth Lennard
公式サイト:https://tokyomelody.com/
公式X:https://x.com/TokyoMelody_4K

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