公開日:2025年1月21日

「やんばるアートフェスティバル2024-2025」(沖縄)レポート。世界自然遺産の個性豊かなロケーションでアートトリップを楽しむ

2017年の初開催から過去7回にわたり行われた本フェスティバルには、国内外からのべ約35万人が来場。ますます注目が集まるこのフェスティバルの今年の様子をお届け

会場風景より、KYOTARO HAYASHI x Ryu《カタチをあたえる。》

世界自然遺産でのフェスティバル

2021年、世界遺産に登録された沖縄本島北部のやんばる地区。ここで1月18日、「やんばるアートフェスティバル 2024-2025」が開幕した。会期は2月24日まで。総合ディレクターは仲程長治。現代アートの作品が集まる「エキシビション部門」のディレクターは、金島隆弘。伝統から現代まで、県内の様々なクラフトを展示販売する「クラフト部門」のキュレーターは、麦島美樹/麦島哲弥。

大宜味村立旧塩屋小学校
プレスプレビューの様子

2017年の初開催から過去7回にわたり行われた本フェスティバルには、国内外からのべ約35万人が来場。ますます注目が集まるこのフェスティバルの今年の様子をお届けする。

会場は、大宜味村の大宜味村立旧塩屋小学校、大宜味村喜如嘉保育所、やんばる酒造。国頭村のオクマ プライベートビーチ&リゾート、辺土名商店街、本部町の沖縄美ら海水族館(美ら海プラザ)、名護市のオリエンタルホテル 沖縄リゾート&スパ、カヌチャリゾート、名護市民会館前アグー像、サテライト会場の星野リゾート BEB5沖縄瀬良垣(恩納村)、ホテルアンテルーム那覇(那覇)の11ヶ所のため、レンタカーで沖縄の景色を楽しみながら巡るのがおすすめ。今回はそのなかから、メイン会場の大宜味村立旧塩屋小学校(大宜味ユーティリティーセンター)の作品を中心に紹介したい。

大宜味村立旧塩屋小学校

大宜味村立旧塩屋小学校は海に囲まれた気持ちの良い会場。同所で展示を行うエキシビション部門の出品作家は浅田政志、うしお、Chim↑Pom from Smappa!Group、津田道子、冨安由真、Leggy_、ロドリゲス=伊豆見・彩、渡辺志桜里ら21組。クラフト部門はacier+Grau、伊豆味ガラス工房うみのおと、オサム工房、神谷窯ら22組が顔を揃える。

なお今回、展示キュレーションで初となる「YAFキュラトリアル・コミッティ」が結成。ディレクターの金島隆弘に加え、ゲルベン・シェルマー、林怡華(エヴァ・リン)、町田恵美、吉田山(Yoshida Yamar)というこれまで本フェスティバルに参加経験のあるキュレーター陣が展示をより多角的なものにする。

左から金島隆弘(「エキシビション部門」のディレクター)、町田恵美(キュレーター、「YAFキュラトリアル・コミッティ」のひとり)

早速いくつかの作品を見ていこう。本フェスティバルには、やんばるの自然や文化に呼応する作品を発表する者が多いが浅田政志はそんな作家のひとり。やんばるの森の「ブナガヤ」(赤い髪と小さな体を持つ精霊や妖怪のような存在)をテーマにインスタレーション兼撮影スポット《わたしのブナガヤ》を出現させた。誰もが「ブナガヤ」になって撮影できるというユニークなものだ。

会場風景より、浅田政志《わたしのブナガヤ》

アーティスト活動のなか、日系移民の第一世代の歴史をテーマに自由研究を行ううしおは、カナダ・バンクーバーの日系人資料館にて知った、第二次世界大戦中に日系移民が外国人として差別され、IDカードに顔写真と指紋が押されていた事実や、パスポートにもかつては指紋が記されていたことなどを起点に、線画と指紋で構成された7枚のタペストリーを発表。本作《海の向こう》は、うしおが昨今取り組んでいる「人々の渡海を巡るストーリー」の最新作に位置づけられる。

会場風景より、うしお《海の向こう》

1980年代、沖縄に「沖縄グラフィックデザイナークラブ」が誕生し、個性あふれる沖縄のデザイナーたちがそのコミュニティに所属していた。今回、50〜90代の9名のデザイナーからなるOGDC=Okinawa Graphic Designer’s Classが「沖縄グラフィックデザイナークラス」として沖縄のデザインの当時の空気感を教室内に再現。オリオンビールの有名なロゴからJAGDAのロゴまで、「このデザインも沖縄のデザイナーによるものだったのか!」という意外な発見や、沖縄の懐かしいローカルCMが楽しい。

会場風景より、OGDC=Okinawa Graphic Designer’s Classの展示

柏原由佳は、沖縄の各地でスケッチをし、様々な記憶を頼りに、南城美術館で3ヶ月滞在制作した227cmx364cmの大型絵画作品や、小作品などを展示。窓の外から見える沖縄の海と絵画とのコントラストが美しい空間が広がる。

同じくやんばるに滞在し、そこでの観察をもとにした作品群「two shelves」を発表するのは黃海欣(ホァン・ハイシン)だ。

会場風景より、柏原由佳の展示「Seeing in the Dark」
会場風景より、黃海欣「two shelves」

華道家の片桐功敦は、沖縄で受け継がれていた伝統的な焼き物「パナリ焼」をテーマとした展示を構成。水を貯め、食料を貯蔵するなど生活道具として使用されるほか、骨壷でもあった焼き物を撮影し、島の原風景に想いを馳せるという作品だ。

映像作家、写真家の林響太朗とミュージシャンのRyu(Ryu Matsuyama)からなるKYOTARO HAYASHI x Ryuは、海風がそよぐロケーションにぴったりのインスタレーション《カタチをあたえる。》を出品。Ryuによる心地よい音楽が流れるなか、林の写真がプリントされた布が風をとらえて絶え間なく形を変える本作について、「やんばるでしか見えない風を再現できたと思う」とRyuは自信を見せる。

会場風景より、片桐功敦の展示
会場風景より、KYOTARO HAYASHI x Ryu《カタチをあたえる。》

Chim↑Pom from Smappa!Groupは、沖縄において「穴」や「地下」という概念に基づく「奈落」をテーマに、ロボットがサーチライトで何かを探し続ける作品《穴番 / Who where what is のプロトタイプ》を展示。私たちが一度は見たことのあるロボットが改造され、中身はまったく違うものになっており、その挙動とあいまってどこか不気味さ、恐怖感を醸している。

身体、創造性などの観点から「人が自然と集まる」という現象に興味を持ち始めたという津田道子は、等価に「人をつなげてきたもの」としての泡盛に着目。泡盛にまつわるリサーチをもとにしたインスタレーション《泡盛ラプソディ》を発表している。

会場風景より、Chim↑Pom from Smappa!Group《穴番 / Who where what is のプロトタイプ》
会場風景より、津田道子《泡盛ラプソディ》

冨安由真は、小学校の放送室と視聴覚室でサウンドと映像、照明の演出を組み合わせたインスタレーション作品《おとずれるもの》を展示。ウンガミの祭りで使用される小太鼓(パーランクー)の音、祈願が行われる場のひとつである兼久浜の海を空撮した映像、ウンガミの儀礼「御願バーリー」(塩屋湾で行われる舟の競漕)の掛け声を録音した音声などを組み合わせ、照明の演出を加えながら、多層的な鑑賞体験をもたらしている。

会場風景より、冨安由真《おとずれるもの》

中澤ふくみは、沖縄における「人間と道具」の関係性をモチーフに作品を制作。今回は短く繰り返すアニメーション映像を教室内に投影し、和紙に描いたアニメーションの原画をすべてのりで貼り合わせたものを、「物質的身体」として展示している。

総合ディレクターの仲程長治は、今回のフェスティバルのテーマである「山原本然(やんばるほんぜん)」を表す作品を出品。

会場風景より、中澤ふくみ《人と道具の相互形成》
会場風景より、仲程長治《山原本然》

ヘニング・ヴァーゲンブレトは、日曜日の街の静けさから着想を得たインスタレーション作品《マズーカの日曜日》を教室全体に展開。プレス内覧会ではインスタレーションのBGMとなるような作家によるアコーディオン生演奏も特別に披露された。

沖縄に生まれ、現在はニューヨークを拠点とするロドリゲス=伊豆見・彩は、《声にすること》を発表。これまで、第二次世界大戦中の沖縄で起こった出来事が記された短編集をもとにした《Okinawa's Tragedy: Echoes from the Last Battle》などを手がけてきており、本作もその延長にあるものだ。

会場風景より、ヘニング・ヴァーゲンブレト《マズーカの日曜日》
会場風景より、ロドリゲス=伊豆見・彩《声にすること》

Chim↑Pom from Smappa!Group のメンバーの林靖高と稲岡求、アーティスト西村健太による園藝プロジェクトのLeggy_は、7日間沖縄を北上しながら米軍基地、市場、歴史資料館などに立ち寄り素材を集め、海岸の漂流物や黙認耕作地の土を用いて給水タンクに植える「寄せ植え=チャンプル植え」を庭にインストール。展覧会期後も継続して展示され、変容していく。

会場風景より、Leggy_《Leggy_Chanpuru 2024~》

大宜味村立旧塩屋小学校の体育館では渡辺志桜里、八重山における創作や美術工芸をひもとくユニット「五風十雨」、柳宗悦が1939年に執筆した『琉球の富』から85年が経過した沖縄の美術工芸を、現代の視点からとらえ直すことを目的に活動する研究会「新・琉球の富研究会」による展示と、沖縄本島北部地域・やんばるの市町村民による公募型展覧会「やんばるの美術展」が開催。北海道・白老町を拠点とするコレクティヴのkoouは、屋外写真展を開催している。

会場風景より、渡辺志桜里《Blue -alter edtion-》

クラフト部門の「YAF CRAFT MARKET」も見逃せない。ここでは沖縄の工芸品を実際に手に取って購入できたり、ワークショップに参加したり、地域の素材を使ったフードを楽しむことができる(筆者も実際に工芸品の食器を購入)。

会場風景より、「YAF CRAFT MARKET」の様子
会場風景より、「YAF CRAFT MARKET」の様子

また、大宜味村立旧塩屋小学校から車で3分ほどの場所にある大宜味村喜如嘉保育所では、アートチーム「チームやめよう」の《カメ人見知り》、麥生田兵吾の《Edge Complex》が展示中。こうしてふたつの会場を巡るだけでも数多くの作品との出会いがある。

大宜味村喜如嘉保育所での展示風景より、麥生田兵吾《Edge Complex》

ウェブサイトでは公式スポットガイドのほか、アーティストや関係者がおすすめする観光地、食や買い物を楽しめるオリジナルのマップ公開中。沖縄の自然、文化を丸ごと味わうのにおすすめのフェスティバルをぜひ訪れてほしい。

オクマプライベートビーチ&リゾートでの会場風景より、永井英男《paradise / heaven》

野路千晶(編集部)

野路千晶(編集部)

のじ・ちあき Tokyo Art Beatエグゼクティブ・エディター。広島県生まれ。NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]、ウェブ版「美術手帖」編集部を経て、2019年末より現職。編集、執筆、アートコーディネーターなど。