公開日:2025年6月5日

鳥のいる風景──「鳥々 藤本能道の色絵磁器」が智美術館で6月から開催。表現の深化と技術の関係に迫る

独自の技法「釉描加彩(ゆうびょうかさい)」を開発した色絵磁器の巨匠による、写実的で奥行きのある作品世界に触れる。会期は6月7日〜9月28日

左:藤本能道 雪白釉釉描色絵金彩五位鷺図扁壷 1990 右:藤本能道 色絵木蓮と鵯八角筥 1976

日本を代表する色絵磁器の巨匠

藤本能道の展覧会「鳥々 藤本能道の色絵磁器」が、菊池寛実記念 智美術館で6月7日〜9月28日に開催される。

藤本能道(ふじもとよしみち、1919~1992)は、写実的で奥行のある色絵を追究し、1986年には色絵磁器の重要無形文化財保持者、いわゆる人間国宝に認定されている。1941年、東京美術学校(現・東京藝術大学)卒業後に文部省工芸技術講習所に入所。後に色絵磁器で重要無形文化財保持者となる富本憲吉(とみもとけんきち)、加藤土師萌(かとうはじめ)の指導を受け、陶芸の道に進む。写生から文様を考案するという藤本の制作スタイルは、「模様から模様をつくらず」という富本の教えによるものだ。前衛的な陶芸制作を試みた時期もあったが、1962年に東京藝術大学助教授に就任以降、色絵に専心するようになる。

藤本能道 色絵えにしだに雀陶筥 1974

レイヤードの表現を活かした、遠近感のある独自の色絵

絵具や釉薬、描法の研究や開発を行い、鳥を主なモチーフに遠近感や立体感のある色絵表現を生み出したことで知られる藤本。従来、原色のみの表現であった色絵において、中間色の色絵具を作り、複雑な色調による表現を可能にしたほか、白磁の色調を生み出す釉薬においても、色絵具の効果を引き出すために多様な「白」を追究し、開発に取り組んだ。1970年代前半からは、輪郭線を引かずに色のにじみでモチーフを立体的に描く技法、「没骨(もっこつ)」を採用した。

藤本能道 色絵翡翠文八角筥 1979

さらには、色絵の下層に背景を描く独自技法「釉描加彩(ゆうびょうかさい)」を開発。色絵磁器は、磁土を釉薬で覆って高温で焼成し、その上に色絵具で文様を描いて低温で焼き付けるのが一般的な手法だが、藤本は文様と白磁の肌を調和させるため、焼成前の釉薬上に背景を描くことで、水彩画のような淡い背景を表す技法を確立した。色絵は絵具や釉薬を重ねる層状の表現といえるが、その特徴を活かして、写実的でありながら文様としての抽象性も有する独自の表現を展開した。

藤本能道 霜白釉釉描色絵金彩燈火誘蛾図長四角筥 1991

本展では、藤本が主なモチーフとした鳥に着目し、1970年代半ばから最晩年の1991年までの作品を中心に展示。素材や技法を開発して色絵磁器に本格的に取り組んだ充実期の作品を通して、藤本の制作を展観する。あくなき探究心により、自らの表現を切り拓いた色絵磁器の名匠の作品を一堂に鑑賞できる貴重な機会となりそうだ。

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