公開日:2025年10月2日

「平子雄一展 ORIGIN」(岡山県立美術館)レポート。故郷・岡山で問う自然と人間の境界、そして「起源」とは?

岡山県立美術館で現代美術作家・平子雄一の大規模展覧会「瀬戸芸美術館連携プロジェクト 平子雄一展 ORIGIN」が開催中。会期は9月16日〜11月9日

平子雄一 Wooden Wood 115 2025

自然と人間の境界線を揺さぶる大規模個展

岡山県立美術館「瀬戸芸美術館連携プロジェクト 平子雄一展 ORIGIN」展が、11月9日まで開催されている。

自然と人間の共存関係のなかに浮上するあいまいさや疑問をテーマに、スケールの大きな絵画および立体作品を発表し、国内外で注目を集めている現代美術作家・平子雄一。昨年開催された奈義町現代美術館「IDEAL LANDSCAPE 平子雄一展」に続き、本展は作家の故郷・岡山県での大規模個展である。展示室のみならず、屋内広場や中庭など美術館建築を活かした空間が、かつてないスケールで展開されている。

また、本展は「瀬戸内国際芸術祭2025」の広域連携事業として行われており、会期中を中心に、香川・岡山・兵庫3県の8つの美術館で日本の現代アーティストによる展覧会が開催される。「瀬戸内国際芸術祭2025 - 秋会期 -」(10月3日〜11月9日)や開催中の「岡山芸術交流2025」(9月26日~11月24日)とあわせて巡るのもおすすめしたい。

平子雄一 Islands 2023-25

「自然」への問いの始まり

1982年岡山県生まれの平子は、1999年にイギリスに渡り、2006年にウィンブルドン・カレッジ・オブ・アート絵画専攻を卒業。現在は東京を拠点に、ペインティングを中心としながら、ドローイング、彫刻、インスタレーション、サウンドパフォーマンスなど多岐にわたる表現で活動している。

平子雄一 Islands 2023-25

岡山の豊かな自然のなかで育った経験は、平子の作家活動の原体験となっている。高校卒業後にロンドンに渡った際、街路樹や公園など人の手で整備された植物を「自然」と呼ぶことへの違和感を感じ、それが現代社会における自然と人間の境界線を問う制作の出発点となった。昨年は奈義町現代美術館で「理想の風景」をテーマに、山や湖などの風景を表現した巨大な立体作品を発表。そして今回、展覧会タイトル「ORIGIN」には、植物や人間を含めた自然の「起源」へのアプローチと、自身の「起源」としての岡山への回帰という二重の意味が込められている。

平子雄一 Islands 2023-25

来場者を迎える"森の妖精"?

階段を降りて、展示室の前に来場者を出迎えるのは《Tree, Forest, Mountain》(2025)という作品。頭部が樹木のかたちをした不思議なキャラクターたちが、ぎっしりと大きな山となって並ぶ。「被り物をしているように見える人もいれば、植物から人間の体が生えていると考える人もいますが、平子さんは鑑賞者それぞれの解釈に委ねています」と、担当学芸員の古川文子(岡山県立美術館)は語る。

森の精霊のようにも見えるこのモチーフは、人と自然の関係性そのものを静かに問いかける。そして驚くべきことに、本作を含め、展示作品の大半は開催決定後のわずか1年で制作されたものだ。

新作彫刻の世界へ

最初の展示室に足を踏み入れると、天井まで伸びる新作彫刻に圧倒される。入口左側の《Wooden Wood 115》(2025)は、大きなテーブルに様々なごちそう、カラフルな食器と本が並べられたインスタレーション作品。リアルでありながら、異世界の食卓のような不可思議さを湛えている。古川学芸員のおすすめは、テーブルに座るキャラクターのあいだに入って記念撮影すること。作品と一体になり、非人間的なスケール感を体験できるフォトスポットだ。

平子雄一 Wooden Wood 115 2025

隣には不思議な本棚を想起させる《Wooden Wood 116》(2025)と、巨大な人物の彫刻とかわいい動物が並ぶインスタレーション《Wooden Wood 114》(2025)も展開。いずれも本展のために制作された新作だ。

平子雄一 Wooden Wood 116 2025
平子雄一 Wooden Wood 117 2025

300点が織りなす群島

次の展示室で待ち受けるのは、《Islands》(2023〜25)の圧巻の空間。山や島を思わせるかたちを背景に、絵画と立体作品約300点が展示されている。「Islands」というタイトルは瀬戸内海を見晴らす海沿いの風景を想起させるが、日本全体の印象を含めた広いイメージが込められているという。

平子雄一 Islands 2023-25

彫刻、ドローイング、絵画など──宝箱のような展示室は、子供から大人まで楽しめる空間として現れる。気になるスポットを見つけ、物語を紡ぐのも楽しみ方のひとつだ。

平子雄一 Islands 2023-25
平子雄一 Islands 2023-25

4枚の大作が語る「起源」

展示の中心を占めるのは、500号の大作4点で構成され、展示室で圧倒的な存在感を放つ《Lost in Thought: Origin》(2025)。平子が得意とする、単体でも成立しながら組み合わせることで新たな世界観を生み出す作品だ。

平子雄一 Lost in Thought: Origin 2025

古川学芸員によれば、左から順に作家自身の原風景、現在を表す風景、人の手が加わることでできた風景、そして最後に種──循環するイメージを持たせている作品である。起源から未来へと巡る4枚の大作。その前に立つと、自然と人間の境界について思考する時間が静かに流れ始める。

平子雄一 Lost in Thought: Origin 2025

オリジナルグッズにも注目

しかしここで展示は終わらない。見逃せないのはオリジナルグッズのラインナップだ。ワンポイントソックス(税込1980円)、トートバッグ(税込1100円)、ぬいぐるみキーホルダー(税込3300円)といった定番アイテムから、ブランケット(税込22000円)やラグ(税込165000円)といったクオリティの高いアイテムまで揃う。さらに特設ショップ隣には、オリジナルのガチャガチャも設置されているので、お見逃しなく。

「瀬戸芸美術館連携プロジェクト 平子雄一展 ORIGIN」グッズ売り場
「瀬戸芸美術館連携プロジェクト 平子雄一展 ORIGIN」グッズ売り場

※Tokyo Art Beatでは「IDEAL LANDSCAPE 平子雄一展」(奈義町現代美術館)を機に行ったインタビューも公開中

灰咲光那(編集部)

灰咲光那(編集部)

はいさき・ありな 「Tokyo Art Beat」編集部。慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。研究分野はアートベース・リサーチ、パフォーマティブ社会学、映像社会学。