『ダンスの審査員のダンス』 Photo:Azusa Yamaguchi
みなさんは演劇を観に行きますか。観ないなら、なんででしょうか。
10月1日に開幕した「秋の隕石2025東京」は、誰もがウェルカムな舞台芸術祭を目指している。Tokyo Art Beatはこれを機に、アーティスティック・ディレクターの岡田利規と、『急に具合が悪くなる』の著者で文化人類学者の磯野真穂の対談を企画した。そこで話題になった岡田さんの素朴な疑問——なんで舞台芸術を見ないんでしょうか。
正直に申し上げますと、私は演劇が苦手だ。さらに言えば、人間という存在が苦手である。限られた空間で人間に囲まれ、人間による人間劇を観るのは苦しい。閉じ込められているような感覚を持ってしまう。それに、目の前で演技する役者を見ると、どうしても息づかいや表情、セリフを思い出そうとしている瞬間に注意が向いてしまう。「ああ、人間だな」と思ってしまい、役を信じるのがとても難しい。社会のなかで私たちが演じる役と、舞台上で演じる役。それぞれが絡み合って、「本当」とは何かをいつも疑ってしまう自分がいる。
そこで気になったのが、「秋の隕石2025東京」が掲げる「ウェルカム体制」だ。本祭はアクセシビリティや鑑賞サポートが充実していて、障害者や子供、親子連れにも気軽に舞台芸術を楽しんでもらえる取り組みを行っている。なかでも「リラックス・パフォーマンス」という上演方法では、音響や照明の効果を柔らかいものにすることで、小さい子供や、静かに大人しく座っていることを強制されるような空気が苦手な人も安心して楽しめる環境を作っているという。
私もそうしたリラックス・パフォーマンスを体験してきた。選んだのは岡田利規の最新作『ダンスの審査員のダンス』。ダンスの審査会に臨むダンスの審査員がダンスしながら審査するダンス作品兼演劇作品で——少しわかりにくいが、様々なレイヤーが重なる作品だった。リテラシーが求められる作品のため、舞台芸術をめったに観ない人にとっては難しい印象も受けたが、審査員とともに体験する"構造"が面白かった。
上演は照明が落とされないまま行われ、開いている扉から子供の笑い声が聞こえてくるような雰囲気だった。暗闇で静かにしないといけないという圧迫感がなく、隣にやはり人間が座っているという点を除けば、リラックスした状態で観ることができた。ただし座席の間隔は狭く、自由に席を立ったりする行為は難しかったので、そこは従来の演劇と変わらない印象も受けた。
話逸れるが、最近はオランダのLAB-1のような会場も話題を集めつつある。そこではバーのようにドリンクをオーダーすることができたり、たまに映画を鑑賞しながら編み物などができる「クラフトシネマ」イベントも行われる。こうした新しい鑑賞スタイルが広がれば、じっとしていられない私のような人も劇場に足を運びやすくなるかもしれない。
舞台芸術祭「秋の隕⽯2025東京」が10月1日〜11月3日まで池袋・東京芸術劇場を中心に開催中。気になる方はぜひチェックしてほしい。次回の編集部日記もお楽しみに。
灰咲光那(編集部)
灰咲光那(編集部)